あなたもきっと騙される! 罠と仕掛けに満ちた驚愕のサスペンス『去年の冬、きみと別れ』

 原作は「教団X」や「R帝国」で知られ、つい先日「悪と仮面のルール」が映画化されたばかりの人気作家・中村文則の同名小説。小説自体もトリッキーな面白さにあふれた作品ですが、映画はさらにその上を行っています。小説は叙述トリック(作者が文章を使って読者に向けて仕掛けたトリック)を使用しているため、そのままでは映像化は不可能。それを大胆な脚色と設定の変更により、見事に約2時間の映画に仕上げているのです。ミステリー小説の脚色はこうあるべき、というお手本にしたいような作品。

幸せそうな百合子(山本美月)と耶雲(岩田剛典)のカップル
幸せそうな百合子(山本美月)と耶雲(岩田剛典)のカップル

 週刊誌のベテラン編集者・小林良樹(北村一輝)のもとに、一人の若い記者・耶雲恭介(岩田剛典)が、ある企画を持ち込んできます。婚約者・松田百合子(山本美月)との結婚を間近に控えた彼は、「その前に自分を試す最後の冒険がしたい」として、ある大物に関する本を書きたいというのです。その相手とは世界的に有名な天才カメラマンの木原坂雄大(斎藤工)。かつて撮影中に盲目のモデル・吉岡亜希子(土村芳)が焼死するという事件が起き、木原坂は一度は殺人の疑いで逮捕されたものの釈放されたという経緯がありました。しかし彼には、燃えていく被害者に向かって炎の中でシャッターを切っていた、という不穏な噂も広がっていたのです。あれは本当に事故だったのか、それとも猟奇殺人か?

木原坂(斎藤工)の事件を報じた記事
木原坂(斎藤工)の事件を報じた記事

 謎に満ちた木原坂に取材を申し込み、彼の周辺の調査に没頭していく耶雲。しかし、そんな彼をあざ笑うかのように、木原坂はいつの間にか耶雲の婚約者の百合子に接近していきます。次のターゲットは彼女なのか? 木原坂の正体とは? そして耶雲がとった行動は…。

 ここまでお読みいただいたところで、「事件の全体像は見えた」と思う方は多いと思います。実際、この後である「悲劇」が発生するのですが、なんとこの時点で映画はまだ半ばを迎えたに過ぎません。この映画が本当にすごいのは、ここから。

 ネタバレ回避のため詳しく書くことはできないのですが、登場人物が別の登場人物に仕掛ける「罠」のみならず、映画の作り手から観客に向けての「罠」もふんだんに含まれているのです。観終わった後、画面のあちこちに残されていた「手がかり」の数々を知らされ、「もう一度観直したい!」と思うはず。

木原坂と耶雲の対決の結末は…?
木原坂と耶雲の対決の結末は…?

 木原坂を溺愛し親密すぎる関係の姉・朱里(浅見れいな)、姉弟の父親の死の謎、部屋に置かれた芥川龍之介の「地獄変」など、木原坂の周辺には怪しげな存在がいっぱい。演じる斎藤工も、自信たっぷりで傲慢な天才カメラマンとして耶雲や百合子を翻弄し、悪魔的な雰囲気を漂わせています。対する岩田剛典は、木原坂の闇に巻き込まれていきながら愛する者を守ろうとする必死さを真っ直ぐに表現。この二人の対照的な佇まいがサスペンスを盛り上げているのです。監督は『脳男』の瀧本智行。

 最後にひとこと。もし原作も未読でしたら、映画→原作の順で体験するのをおススメします。理由は、映画を観た後でも小説は充分スリリングだから。メインのトリックは同じなのでその部分のサプライズはありませんが、小説は一人称の語り(回想形式)になっていて、映画とはいくつもの点で設定が違います。先に述べた叙述トリックもあるので、展開がわかっていても映画とは違った楽しみ方ができるのです。両者を比較すると、映像的な見せ場を加えつつ、いかに映画版が巧みに構成されているかがおわかりいただけるかと思います。

(『去年の冬、きみと別れ』は3月10日から公開)

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会