単なるアメコミ映画の枠を超え、シェイクスピア悲劇の格調もたたえた快作『ブラックパンサー』

 もしも「たかが子供向けのアメコミ映画だろう」などと思っている方がいれば、考えを改めた方がいい作品です。マーベル・スタジオは作品ごとにカラーを変えてきますが、今回もまた一味違った映画を送り出してきました。

 主人公のブラックパンサー/ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場したヒーロー。アフリカの小国ワカンダの王子だったティ・チャラは、同作の中で父王ティ・チャカを殺され、復讐のために戦いました。本作『ブラックパンサー』は彼の単独主演作。彼が新たな国王に即位するところから物語は始まります。

 ワカンダはキャプテン・アメリカの盾の原料にもなっている希少鉱石ヴィヴラニウムの産地。実はヴィヴラニウムにはすべてを破壊しつくすほどの超パワーが秘められており、その力を使ってワカンダは超文明国家になっていたのですが、力を悪用されないために国力に関しては秘密を厳守してきました。最先端のテクノロジーを生み出す一方で世界中にスパイを放って社会情勢を探り、ワカンダを世界から守っていたのです。

実は超高度な文明国家のワカンダ
実は超高度な文明国家のワカンダ

 ワカンダがMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に初登場したのは『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』。ここで武器商人のユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)がワカンダを襲撃し、ヴィヴラニウムを強奪したことが語られましたが、本作でもクロウが登場。ヴィヴラニウムをめぐって陰謀を企んでいます。その手下になっているのが謎の男エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)。やがて彼の真の狙いが明らかになった時、ワカンダを暗雲が襲い、世界の命運を賭けた戦いが始まるのです。

 この映画がまずすごいのは、ワカンダという架空の国の、歴史や習俗、掟などを完全に作り上げ、観客にわかりやすく提示していることです。なぜブラックパンサーがアベンジャーズに負けない能力を持っているのか。『シビル・ウォー』では語られなかったことが、ここで判明します。

王位を狙うエリック・キルモンガー(左)
王位を狙うエリック・キルモンガー(左)

 ストーリー的には「王室のお家騒動」なのですが、敵役のキルモンガーの側にもちゃんとした理由付けを行なったことで、シェイクスピア悲劇にも似た雰囲気を作り出しました。すべての原因はかつて父親のティ・チャカが行なった行為にあり、それが歳月を経てティ・チャラに対する試練としてのしかかってくるのですから。ヒーローとしての行動か、国王としての立場か。これまでのアメコミ・ヒーローにはなかった重い責任を負わされた主人公は、重大な決断を迫られることになります。

 またこの映画は社会派的なテーマも含んでいます。ヴィヴラニウムはあまりにも強大な力を持つゆえに、歴代の国王はその力を秘し、他国の紛争にも不介入の方針をとってきました。しかし、一方で「力ある者は、その力を正しく行使し、世界の平和のために戦うべきだ」という意見も存在します。その極端な者がキルモンガーで、彼はヴィヴラニウムが超兵器に転用できることを知り、力による世界の支配を目論むのです。これって、つまり「世界の警察」を自称する某大国へのアイロニーですよね…。

 もちろんマーベル映画ですからアクション・シーンも盛りだくさん。特に韓国の釜山でロケを行ない、実際の幹線道路を使用して撮影されたカーアクションはすさまじい迫力です。

ティ・チャラ(中央)の周囲はブラック・ビューティが固める
ティ・チャラ(中央)の周囲はブラック・ビューティが固める

 ブラックパンサーはアメコミ史上初のメジャーな黒人ヒーローということもあって、クロウ役のサーキスと、『シビル・ウォー』にも登場したCIA捜査官エヴェレット・ロス役のマーティン・フリーマン以外のメインキャストはすべてアフリカ系が占めています。『それでも夜は明ける』のルピタ・ニョンゴ、『ラストキング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィテカーというオスカー俳優も出演。監督も『クリード チャンプを継ぐ男』のライアン・クーグラーが手がけている、まさにブラック・パワー炸裂の映画なのです。

(『ブラックパンサー』は3月1日から公開)

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(c)Marvel Studios 2018