テロ事件を、それに遭遇した人々自身の出演で映画化したイーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』

 87歳を迎えてなお、新作を精力的に発表しているクリント・イーストウッド。彼が監督のみを手がけた作品は実話をベースにしたものが多いのですが、新作『15時17分、パリ行き』はその中でも“究極の実話映画”と言いたくなる内容。なにしろ、実際の事件の当事者たちが自分自身の役で出演しているのですから。

演出中のイーストウッド監督(左端)
演出中のイーストウッド監督(左端)

 2015年8月、アムステルダム発パリ行きの高速列車タリスで、554名の乗客全員を標的にした無差別テロ事件が発生しようとしたその時、武装した犯人に立ち向かったのは3人のアメリカ人旅行者の若者たちでした。しかし映画は、この事件をフラッシュバックさせながら、3人の少年時代にさかのぼるという意表をついた展開になります。

 スペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラーの3人はサクラメントの生まれ。ともにシングルマザーに育てられたスペンサーとアレクは幼なじみで、中学でアンソニーが仲間に加わりました(みんな頭文字がSなので、出席番号が近かったから、というのがリアル)。どちらかというと問題児で、やたらと校長室に呼び出されたりしながらも楽しい少年時代を送ります。このあたりの描写はイーストウッド作品ならば『ミスティック リバー』の少年編を思わせるもの。やがて大人になり、もともと軍人志望だったスペンサーは空軍に入隊し、アレクは州兵になりました。この事件の頃、アレクはアフガニスタンに配置されていて、スペンサーはポルトガル。そこで大学の夏休みだったアンソニーを呼んで、一緒にヨーロッパ旅行をすることになったのです。ローマから始まるこの旅行の様子もまたじっくりと再現されていきます。

少年時代の3人は子役俳優たちが演じている
少年時代の3人は子役俳優たちが演じている

 イーストウッドは事件の様子だけをドラマティックに描くのではなく、どうしてこんな構成を選んだのでしょうか。それは、「なぜ普通の若者がテロに立ち向かうことができたのか?」という疑問に答えを見出そうとしたのではないかと思われます。ただ単にそこに居合わせただけの人間に、あんな勇敢な行為が可能だったのだろうか。彼らの生い立ちから、それを探ろうとしたのです。

 また、この映画は“偶然”と“必然”の関係についても考えさせてくれます。スペンサーは希望する部隊に配属されることができずに衛生兵の訓練を受けていました。しかも彼には柔術の才能があります。また、もともと彼らはアムステルダムに寄る予定はなく、たまたま酒場で隣り合わせた男の助言によってルートを変更していたのです。彼らが犯人の近くの車両に移ったのは、当日の思いつきでした。犯人の機銃が操作不良を起こしたのも奇跡のような事態…。こんな様々な偶然の積み重ねが、大いなる悲劇を未然に防ぐことに繋がり、彼らの勇敢な行動のもとになったものが少年時代に願った“あること”に結びついてくる、というあたりが感動的。「人が経験するすべての出来事に、意味があるんだ」イーストウッドはそう言いたかったのではないでしょうか。

実際のニュース映像も使われているが、違和感がないのは本人たち出演なればこそ
実際のニュース映像も使われているが、違和感がないのは本人たち出演なればこそ

 主人公の3人だけでなく、事件に巻き込まれた他の乗客たちもまた実際に列車に乗っていた乗客たちが集められています。しかも撮影場所はセットではなく、走行中のタリスの車両の中。どこまでも“リアル”にこだわりぬいた作品なのです。

(『15時17分、パリ行き』は3月1日から公開)

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c)2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC