”人生の終わり方”について考えさせてくれるハートフル・コメディ『あなたの旅立ち、綴ります』

“人生の終わり方”を描いた映画が最近増えてきているような気がします。この、『あなたの旅立ち、綴ります』も、そんな一本。

 アメリカの新聞は基本的に地方紙なので、その地域に密着した記事が多く、中でも訃報記事には、その地域性が色濃く出ています。多くの新聞社には訃報専門の記者がいて、単に経歴を記すだけでなく、故人のゆかりの人々に取材して、感動的なエピソードを拾い上げたりもするのです。

 映画は冒頭から、ある富豪の老婦人ハリエット(シャーリー・マクレーン)の生活を追います。テンポよく描かれたわずか数分で、この女性が完璧主義者で口うるさく自己中心的、そして友人も家族もいない孤独な存在であることがわかる見事な演出です。80歳を超えて、ふと“死”を意識した彼女は、新聞の訃報記事に目をとめます。ハリエットが思いついたこと、それは「生前に自身の訃報記事を書かせる」ことでした。地元紙の若い記者アン(アマンダ・セイフライド)が上司からの命令でいやいやこの依頼を受けることになりますが、ハリエットの周囲で取材を開始しても出てくるのは悪口ばかり。

 そこでハリエットは方向転換。ならば“最高のおくやみ記事”に欠かせないエピソードをこれから作っていけばいい。まず地域のコミュニティセンターを訪れたハリエットとアンは、そこで出会った9歳のやんちゃな少女ブレンダと親交を深め、次にハリエットは長年集めたレコードコレクションと音楽の知識を活かし、地元のラジオ局でDJデビューを果たしてしまうのです。

 ともかく大女優シャーリー・マクレーンがものすごいパワーを見せます。高飛車で他人を支配しなければ気が済まない女性であるハリエットは本来なら嫌われ者キャラなのですが、愛嬌あふれる彼女が演じることでバイタリティに満ちた愛すべき女性になっているのです。それもそのはず、この役は脚本家が彼女をイメージして書きあげたもので、いわば“アテ書き”。シャーリーがオスカーを受賞した『愛と追憶の日々』のヒロイン、オーロラの未来の姿を想像して作り上げられたキャラクターだったのですね。80代になっても、まだまだ新しいことが始められるという描写には勇気をもらえます。

 このすさまじい老婦人に振り回されることによって、人知れず悩みを抱えていたアンの生き方も変わっていきます。この部分があることで、ただの“老人映画”ではない楽しみ方ができるのです。ハリエットとアン、そしてブレンダの世代を超えた心の結びつきは感動的。シャーリーとアマンダはこれが初共演ですが、共に製作総指揮として関わっているのも、この脚本がいかに気に入ったかの証明です。

 後半はラジオ局が舞台になるとあって音楽も大きな要素。音楽に造詣の深いハリエットは、ただヒット曲を垂れ流すだけの放送をよしとせず、自分のポリシーに従った選曲にこだわります。これがなかなかに通好み。特に、キンクスに関する会話には「うんうん」と思う人も多いでしょう。ちなみにラジオ局のDJでアンの恋人になるロビンを演じるトーマス・サドスキーとアマンダは、この映画での共演がきっかけで結婚しています。

 突拍子もないハリエットの行動の数々に大笑いさせられながらも、最後に暖かい感動が待っている映画。ひとつの人生の終わりが、新たなる人生のスタートに繋がっていくというハートフルなコメディです。

(『あなたの旅立ち、綴ります』は2月24日から公開)

配給:ポニーキャニオン

(c)2016 The Last Word,LLC.All Rights Reserved.