人喰い人魚姉妹が織りなすポーランド発の摩訶不思議なホラー・ファンタジー・ミュージカル『ゆれる人魚』

 ポーランドから、摩訶不思議なホラー・ファンタジー・ミュージカルが登場しました。主人公は人魚の姉妹。しかし彼女たちは人を捕食して生きる“人喰い人魚”だったのです…。

 1980年代、まだ共産主義体制下のポーランド。海から上がってきた人魚のシルバー(マルタ・マズレク)とゴールデン(ミハリーナ・オルシャンスカ)の姉妹は、ワルシャワのナイトクラブにたどり着きます(彼女たちは水のない所では、巨大な尾ひれが人間の足に変身するのです)。そこは、生バンドの演奏やストリップを楽しむ大人の社交場。シンガーのクリシア(キンガ・プレイス)に拾われた二人は、得意のダンスや歌を披露し、たちまち人気者に。そんな日々の中で、姉のシルバーはバンドのメンバーのミーテク(ヤーコブ・ジェルシャル)に恋をします。初めての恋に浮かれる姉を冷ややかに見つめるゴールデン。彼女にとって、人間は“餌”に過ぎないのですから…。やがて二人の間に生じたすれ違いは、大いなる惨劇に向かって走り出していきます。

クラブの人気者になったゴールデン(左)とシルバー
クラブの人気者になったゴールデン(左)とシルバー

 監督は、これが長編デビュー作の女性監督アグニェシュカ・スモチンスカ。基本的なストーリーラインはアンデルセンの「人魚姫」で、そこにホラー・テイストと、少女の大人への目覚めという要素を加えたものなのですが、全体を80年代風ポップ・ミュージックで覆っているのが最大の特徴。

 共産主義下の80年代、ダンシング・レストランと呼ばれるナイトクラブは、生演奏でポーランドやアメリカのヒット曲を聴くことができ、人々が政治的なしがらみを忘れられる場所としてにぎわっていたそうです。78年生まれの監督は、母親がダンシング・レストランを経営していた関係上、子どもの頃はバックルームを遊び場にしていて、生バンドの演奏を聴きつつ、スパンコールのジャケットを着たミュージシャンたちや、エロティックな装いのダンサーたちを眺めて育ちました。そんな彼女の記憶の中にある、ダンシング・レストランを形にしたのがこの映画というわけ。音楽はポーランドのインディー・ミュージック・シーンで活躍中のヴロンスカ姉妹が担当。80年代風テクノポップやユーロビートを現代的なアレンジや音声加工で聴かせ、ノスタルジックでありながら新しい、幻想的な世界観を作り上げています。

 主人公の少女二人をはじめ、実際にバンドマンを演じている俳優たちが歌っているのも大きなポイント。少女たちの踊りと歌が見どころ&聴きどころになっています。特に妹ゴールデンを演じてその美貌が光るミハリーナ・オルシャンスカは、本作の後にチェコで主演した映画で実在の大量殺人者を演じてチェコ・アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、女優としての実力を開花させました。

 ホラー映画的には、もう少しハードなスプラッター描写があっても良かったかな…、という気がしますが、『ロッキー・ホラー・ショー』あたりが好きな人でしたら楽しめる作品になっていると思います。

(『ゆれる人魚』は2月10日から公開)

配給:コピアポア・フィルム

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