ろくでなしどもが展開する血まみれバトル。凶暴な女たちに振り回される気弱男の運命は?『68キル』

美人だが凶暴なライザ(アナリン・マッコード)

 ちゃちな犯罪計画が、次第に軌道を離れて血まみれの地獄絵図に変わっていく…。いわゆる“グラインドハウス系”のジャンル映画です。毎年テキサス州のオースティンで行なわれる大規模フェスティバル、サウス・バイ・サウスウエストの2017年度映画部門において、異例の追加上映が行なわれ、観客賞を受賞した作品。監督・脚本はトレント・ハーガ。

 配管工のチップ(マシュー・グレイ・ギュブラー)は、美人だが凶暴で押しの強いガールフレンド、ライザ(アナリン・マッコード)に逆らうことができない気の弱い男。ある日、ライザは知り合いの金持ち(たまに金のために抱かれることもある)が金庫に隠している6万8000ドルを一緒に盗みに行こうと持ち掛けてきます。「金持ちが留守の間に盗みに入り、誰も傷つけない」という条件で渋々同行するチップ。しかし留守のはずの家主は家にいて、ライザは彼とその妻をあっさり殺害してしまいます。さらに、そこに不運な目撃者バイオレット(アリーシャ・ポー)もいたことで、チップの運命は狂い始めていくのです。

 欲望のままに突っ走る女が起こした犯罪に気弱な男が巻き込まれる、という点では、先日ご紹介した『愛の病』を男性側の視点で見たようなものと言えるかもしれません。しかし、この『68キル』の方は日本的な湿っぽさは皆無で、ひたすらワイルドかつクレイジーに突っ走っていきます。女性の数も多くなり、チップは彼女たちに振り回されまくるのです。

いろいろと不幸な目に遭うチップ(マシュー・グレイ・ギュブラー)
いろいろと不幸な目に遭うチップ(マシュー・グレイ・ギュブラー)

 まずはライザ。色っぽくてスタイル抜群のブロンド美人ですが、性格がなにしろ荒っぽい。興奮すると発情してやたらとチップの体を求めてきますし、そのセックスも攻撃的で、チップの体は傷だらけ。しかも彼女には兄のドウェインがいて、彼の趣味は女性をバラバラに切り刻むことというサイコな殺人鬼。ライザが目撃者のバイオレットを兄に売り飛ばそうと考えたため、チップは初めて彼女から逃げ出そうとします。

 続いてはバイオレット。最初の犠牲者となった金持ちが3P要員として呼んだ娼婦で、ライザに監禁されますが、チップに助けられた後は彼といい雰囲気になり、彼を励ましたりもするし、他人に啖呵をきったり、警官を煙に巻く芝居を見せるなど一筋縄ではいかない女性。

 さらにスタンド店員として登場するモニカ(シェイラ・バンド)とそのジャンキー仲間たちが、凶暴な姿を見せてチップをいたぶっていきます。つまり、チップが関わる登場人物たちは、ビッチ、サイコ、ゲス男、ギャング、ジャンキーといったろくでなしばかり。そんな社会の底辺に生きる人々が、欲にまみれた殺し合いをくりひろげていくのです。盗んだ金の額が6万8000ドルなので『68キル』というタイトルがついているわけですが、大金とはいえ、一生を安楽に暮らせるほどの額ではなし。その程度のことに命を賭けてしまうあたりに、なんとも言えないブラックな笑いがにじみ出していきます。

 あきれるほど運が悪い(多分に自業自得な面はあるのですが…)チップに次々と降りかかる災難の連続に大笑いしながらも、ちゃんと彼の成長物語にもなっているのがミソで、この手の映画が好きな人には(残酷シーンに抵抗がないという条件が付きますが)たまらない映画なのです。

(『68キル』は1月6日から「未体験ゾーンの映画たち2018」で公開)

配給:トランスフォーマー

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