ホロコーストは存在しなかった!? とんでもない事案が法廷で裁かれた驚愕の実話『否定と肯定』

 2000年にイギリスで実際に起きたリップシュタット裁判事件の映画化。なんと、この裁判では「ホロコーストが実際にあったのか?」が争われたのです。戦後50年以上も経って、まさかそんなことが?

 この映画『否定と肯定』(原題は、単なる『否定』になります)が描き出すのは、歴史修正主義者の恐ろしさです。

 ことの起こりは1994年、アメリカ在住のユダヤ人歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)が、その著書「ホロコーストの真実」の中で、「強制収容所におけるユダヤ人の大量虐殺の事実はなかった」と主張するイギリスのホロコースト否定論者デイヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)を非難したことでした。やがてアーヴィングは彼女の講演会に押しかけて責め立ててきただけでなく、イギリスの裁判所に名誉棄損で提訴してきたのです。こうして異例の法廷対決が始まります。

デボラを訴えたアーヴィング(ティモシー・スポール)
デボラを訴えたアーヴィング(ティモシー・スポール)

 ここで問題になるのが、舞台が英国の法廷だという点です。他の国では、訴えた側に立証責任があり、相手の有罪を証明できない場合は「推定無罪」の原則が適用されて被告は罪に問われません。しかし英国の法廷では、被告側に自分の無罪を証明する責任が課せられてしまうのです。なんという理不尽! しかし、もし裁判に敗れれば歴史がねじ曲げられ、「ホロコーストはなかった」ということに…。

 デボラは腕利きの事務弁護士ジュリアス(アンドリュー・スコット)と法廷弁護士ランプトン(トム・ウィルキンソン)に依頼して戦うことを決意しますが、弁護団は彼女に意外な法廷戦術を提案してくるのでした。

デボラを支える弁護人グループ
デボラを支える弁護人グループ

 歴史修正主義者は、文書の中から自分に有利な部分だけを取り出したり、外国語をわざと誤訳したりして自説の「証拠」を作り上げていきます。研究者にまとわりついて無視されると「あいつは反論できなかった」と自分の正しさを主張します。目撃者に対しては、記憶違いを誘発するような些細な質問を繰り返し、その信頼性を失わせようとするのです。今作では、『ハリー・ポッター』シリーズでも知られる名優スポールが、イギリス人でありながらヒトラーの信奉者でもあるというアーヴィングを憎々しく演じています。

 デボラ・リップシュタットを演じるレイチェル・ワイズも大熱演。ユダヤ人のルーツを持つ彼女は、実在のリップシュタットに何度も会い、その思考や信念、性格まで把握した上で演技に臨みました。正義感が強く、相手の主張に対し衝動的に反論したくなってしまうデボラの危なっかしさが、最後までサスペンスを盛り上げていくのです。

法廷弁護士役で渋い演技を見せるトム・ウィルキンソン
法廷弁護士役で渋い演技を見せるトム・ウィルキンソン

 監督はケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストンが共演した『ボディガード』で知られるミック・ジャクソン。最近はドキュメンタリーを多く手がけているということもあって、リアリティーと緊迫感あふれる法廷シーンを作り上げています。

 しかし、何と言っても光るのはベテラン名優トム・ウィルキンソンの演技でしょう。敏腕弁護士の切れ味するどい法廷での佇まいと、法廷を離れた時の穏やかな表情の落差を余裕さえも感じる風格で演じきり、まさに“老練”という言葉がぴったり。彼の存在がこの映画に重厚感を与えているのです。

 意図的にねじ曲げられた理論であっても、声高に主張し続けていれば世間的にまかり通ってしまうという、フェイクニュース全盛の現在だからこそ、こうした風潮に警鐘を鳴らす作品が必要なのかもしれません。

(『否定と肯定』は12月8日から公開)

配給:ツイン

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