古都イスタンブールで住民と共生する野良猫たちを描くドキュメンタリー『猫が教えてくれたこと』

 

可愛い猫たちが全編にわたって登場
可愛い猫たちが全編にわたって登場

 トルコの古都イスタンブール。海洋貿易の拠点として発展したここは、オスマン帝国の頃にエジプトから猫がヨーロッパに渡った最初の地だとされています。それが原因だからというわけではないでしょうが、今なお帝国時代の名残を残す古い街並みには、数多くの野良猫が住みついていて、街の景観の一部になっているのです。この映画『猫が教えてくれたこと』は、そんな猫たちと、それを温かく見守る人々の姿を追ったドキュメンタリー。

猫の視点に合わせて撮影された部分も
猫の視点に合わせて撮影された部分も

 この地に生まれた監督のジェイダ・トルンと撮影監督のチャーリー・ウッパーマンが徹底的にこだわったのは猫の視点。そのため彼らは、街路にうつぶせになって猫と同じ高さでカメラを構え、猫たちにできるだけ近づくためにさまざまな“猫カメラ”を開発しました。路地裏を歩く猫の後をどこまでもついていけるように低く設定したカメラや、高い所にいる猫を捉えるためのドローンなど。猫はいつ何時、どんな行動をするか予想ができないので、決定的瞬間を逃がさないように、まるでストーカーのように追跡を続けます。そうして来る日も来る日も同じ猫を撮り続けたことによって、その猫の“物語”が浮かび上がっていくのです。

”泥棒”と呼ばれる猫、サリ
”泥棒”と呼ばれる猫、サリ

 映画で中心的に描かれる猫は7匹。“泥棒”と呼ばれるサリはメスの黄色の虎猫。街のランドマークであるガラタ塔の足元を根城にし、広場のカフェやレストランから食べ物を奪います。時にはブティックの中に入り込んで何時間も過ごすことも。灰色のメスの虎猫ベンギュは“恋人”。工業地帯に住む彼女は多くの男性の心をつかみ、人々の癒しとなっているのです。“ハンター”アスラン・パーチャシは白黒の毛の長いオス猫。港町のレストランの守護神としてネズミ退治に一役買い、人々に感謝されています。サイコパスと呼ばれる白黒のメス猫は激しい気性で、犬すらも恐れず、縄張りからライバルを追い出すことに成功。“社交家”デニスは灰色と白のオス猫で、マーケットのマスコットとしての地位を確立。お客や店主たちに可愛がられています。白黒のオス猫“遊び人”ガムシズは、近所に住む人を熟知。誰からどんな食べ物をもらえるか心得ていて、相手のもとに向かいます。高級レストランを根城にしているのは“ジェントルマン”デュマン。この灰色と白のオス猫は、店の出口でウェイターが食事を用意しているのを待ち続ける美食家。お客たちも彼がウェイターの気を引くために窓を叩く仕草を心待ちにしています。

レストランの窓を叩くデュマン
レストランの窓を叩くデュマン

 そんな猫たちについて語るのは、彼らを見守っている街の人々。人々はそれぞれ自分がなじみの猫について、愛情と親しみをこめて、まるで家族について話すような表情を見せてくれます。この町では野良猫と人間が共存していて、街ぐるみで猫を飼っているよう。猫は街の景観に同化しているだけではなく、人々の生活の一部にもなっていることがうかがえるのです。

街の人々の猫への愛情が伝わってくる
街の人々の猫への愛情が伝わってくる

 ところで、この映画の邦題は『猫が教えてくれたこと』ですが、実のところ猫は何も教えてくれません(原題は単に『猫』)。猫はただそこにいて、自由に自分のやりたいことをしているのであり、それに人間が勝手な理屈を付けているだけなのです。しかし実際に、猫と接することによって精神的な苦しみから救われた事例も出てくるので、やはりその癒し効果には絶大なものがあるのでしょう。街中で気ままな暮らしを送る猫たちは、猫カフェにいる猫とはまた違った表情を見せてくれるので、猫好きは必見のドキュメンタリーです。

(『猫が教えてくれたこと』は11月18日から公開)

配給:アンプラグド

(c)2016 Nine Cats LLC

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