『ブレードランナー2049』はなぜ『ブレードランナー2』ではないのか。前作からの間に何があったのか?

 この映画のタイトルは『ブレードランナー2049』であり、決して『ブレードランナー2』ではありません。1982年の映画『ブレードランナー』とは同じ場所を舞台にし、何人かのキャラクターの“その後”も描かれてはいますが、ストーリー的な繋がりはないのです。今回の主人公はライアン・ゴズリング扮するブレードランナーの“K”であって、ハリソン・フォード演じるデッカードは重要人物ではありますが、主役的な活躍とは無縁。あくまでもKのドラマが描かれていきます。

 舞台となるのは前作の30年後、2049年のカリフォルニア。相変わらず雨が降り続き、一部の地域は水没の危機に瀕しています。一方で内陸部は砂漠化し、干ばつで農業は壊滅状態になり、虫を育てて食用にすることまでが行なわれています。2019年から現在までに何があったのか? それは冒頭で簡単に説明されるほか、その間の事情を描いた短編がネットで見られますので、まず基礎知識としてこれだけは押さえておいてください。

LAの外には荒れ果てた世界が広がる
LAの外には荒れ果てた世界が広がる

 人間に代わる労働力としてタイレル社が開発した人造人間レプリカント。その一部が反乱を起こし、捜査官“ブレードランナー”がそれを狩る、というのが2019年を舞台にした『ブレードランナー』の物語でした。創業者エルドン・タイレルの死後、タイレル社は4年の寿命しか持たないネクサス6型に代わる新型ネクサス8型を完成します。これは寿命を持たず、その代わりに簡単に識別できる眼球を移植されていました。しかし2022年、西海岸で原因不明の大停電が起き、電子的なデータのほとんどが失われるという事件で社会は大混乱。それが“レプリカントの反乱によるもの”と報じられたことでレプリカントの製造が禁じられ、タイレル社は倒産。そこを買い取ったのが科学者ニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)でした。

 ウォレスは画期的な遺伝子組み換え食物を開発、その技術を無償で公開したことにより世界的な食糧危機を終焉させ、彼の会社、ウォレス社は世界的な大企業に発展したのです。タイレル社の技術を手にした彼は2036年、レプリカント製造禁止法が廃止となると同時に、反乱を起こすことのない“完成されたレプリカント”ネクサス9型を発表。これによってネクサス8型は違法の存在となり、それを狩るためにブレードランナー組織が強化されました。そして2049年、その一員としてネクサス8型を追うKの姿から今回の物語は始まります。

新型のレプリカント。ネクサス9型が誕生
新型のレプリカント。ネクサス9型が誕生

 さて、前作『ブレードランナー』が高い評価を受けている大きな理由に、その未来描写があります。シド・ミード(クレジットはビジュアル・フューチャリスト!)による、先鋭的にして、どこか現代との地続き感もある近未来社会のデザインとそのディテールの描き込みに、SFファンが歓声をあげ、80年代の家庭用ビデオ機器の普及にともなって、映画公開時以上のヒットとなり、カルト的な価値観で語られるようになったのです。もちろんドゥニ・ヴィルヌーヴ監督をはじめとする今回のスタッフも、前作のファンが集まったものなので、その点には力が入っています。“あれから30年後の世界”を具体化するために、あらゆるアイディアが詰め込まれたのです。今回もシド・ミードはコンセプト・アーティストとして参加。よりリアリティのある未来社会が描写されます。IMAXの高画質で見れば、それだけで圧倒されてしまうような場面の連続。それらをじっくりと描いたために2時間43分という長い上映時間になってしまったのでしょう。一例を挙げれば、スピナーは高性能化していますし、広告は3Dに。街角では屋台のおじさんは姿を消し自動販売機が並んでいる、といった具合。

 ストーリーは、捜査の過程である“秘密”と出会ってしまったKが、その真実を追い求めるために、30年前に消息を絶ってしまった伝説のブレードランナー、デッカードの行方を探す、というもの(ネタバレ回避のために詳しくは書きません)。前作がハードボイルド小説だとしたら、今回はミステリーの味わい。“自分は何者なのか?”というテーマが描かれ、前作以上にフィリップ・K・ディックの味が濃くなっているのが興味深いところです(前作の原作はディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」でした)。

Kはデッカードを探し出すが…
Kはデッカードを探し出すが…

 舞台や人物の一部を共有してはいますが、ストーリーとしては独立したもの。これが起点となって新たな物語を紡ぐことも、K以外を主人公にしてこの世界でのまったく違う物語を作ることも可能にしています。すでに過去の時代を描いた短編が作られていますし、映画ではまったく描かれていない宇宙(この時代、人類はすでに宇宙に進出していて、レプリカントはもともと宇宙空間での労働用に作られたもの)での物語も考えられます。おそらくリドリー・スコット(前作の監督で、今回は製作総指揮)らのスタッフは、人間とレプリカントが共存する“ブレードランナー世界”を構築し、その中で様々な物語を作り上げようとしているのではないでしょうか(3本の短編のうち2編を監督しているのが、リドリーの息子ルーク・スコットですしね)。

ジョイ(アナ・デ・アルマス)はKの理解者
ジョイ(アナ・デ・アルマス)はKの理解者

 キャストでは女優陣が魅力的。特に、Kの理解者で恋人のジョイに扮したアナ・デ・アルマス(『ノックノック』『スクランブル』)が素晴らしく、まさに“理想の彼女”を体現しています。ウォレスに心酔するアクション担当のレプリカント、ラヴに『鑑定士と顔のない依頼人』のシルヴィア・フークス、Kの上司ジョシに『ワンダーウーマン』のロビン・ライト。

 観るたびに新しい発見があるような、そんな映像体験が味わえる映画です。

(付記)

前作を魅力的にしたもうひとつにヴァンゲリスの音楽がありました。本作でもそこにはリスペクトを捧げ、ヴィルヌーヴ監督はあえて常連の作曲家ではなく、ハンス・ジマー&ベンジャミン・ウォルフィッシュに音楽を依頼。シンセサイザーを駆使して前作を彷彿とさせるような音楽を作り上げています。前作からの引用もあるのでお楽しみに。

(『ブレードランナー2049』は10月27日から公開)

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント