トム・クルーズ扮する破天荒男の、嘘みたいなバブリー人生を描く『バリー・シール/アメリカをはめた男』

“嘘のようなホントの話”というのは、まだまだいくらでも隠れているもので、この『バリー・シール/アメリカをはめた男』もそんな一編。CIAの仕事を請け負ったパイロットが裏で麻薬カルテルとも繋がり、密輸稼業に手を染めて巨額の報酬を得ていたという実話の映画化です。もともと製作・脚本家チームは『グッドフェローズ』のようなタッチで、バリーの伝記ドラマを作ろうと考えていたのですが、そこに『オール・ユー・ニード・イズ・キル』以来のタッグ作品を探していたトム・クルーズ&ダグ・リーマン監督コンビが合流したことによって、フィクションの部分が追加され、コミカルなトーンが強調されていきました。

 1978年、大手航空会社TWAの敏腕パイロット、バリー・シール(クルーズ)は、こっそりキューバ産の葉巻を国内に持ち込む副業をしていました。彼の操縦技術を見込んだCIAのシェイファー(ドーナル・グリーソン)は、そのネタを元にバリーに接触。CIAの秘密任務への参加を求めてきます。時速500キロで飛べる最新の小型飛行機で、中米のグアテマラやエルサルバドルへ飛び、反米ゲリラの拠点を空中から偵察撮影するという任務でした。

 80年代に入ると、今度はコロンビアの麻薬カルテルがバリーに接近。コカインをアメリカにこっそり空輸する仕事を押し付けられます。CIAの方も、飛行場付きの一軒家を彼に与えるのと引き換えに、武器をニカラグアに輸送することを命じてきました。反政府民兵(コントラ)に対する支援のためです。かくしてバリーは、行きは武器を満載した飛行機で飛び、帰りは大量の麻薬を持ち帰るという無茶苦茶な日々を送りはじめます。一人では仕事をさばききれなくなった彼はパイロットを雇ってビジネスを拡大。莫大な財産を築き上げるのですが…。

危ない橋を渡り続けるバリー
危ない橋を渡り続けるバリー

“トム・クルーズ史上最大のワル”というコピーが付いていますが、バリーはワルと言うよりも、流れに逆らえず流されるままに生きていった男。スリルと興奮を求め、倫理観をどこかに置き忘れてしまった人間なのです。妻や子供を愛し、どんなことがあっても守ろうとする一面を持ちながらも、狂ったような危険に満ちた綱渡りの日々にも喜びを見出してしまう。立ち止まって考えることをしないで、ひたすらに走り続けた男をトムが熱演しています。かなり能天気で軽薄、知恵よりもむしろ悪運で危機を脱していくバリーの姿はコミカルで、彼の新しい一面を見せてくれるのです。しかもプライベートでも飛行機の操縦を楽しんでいるトムは、本作での飛行シーンはすべて自分でこなしているといいます(さすがに空中での無重力セックスのシーンはスタジオでの撮影ですが)。

妻を愛する普通の男の表情も見せる
妻を愛する普通の男の表情も見せる

 リーマン監督の演出もかなり遊んでいて、おもな時代背景となった80年代風の演出も随所に取り入れ、ポストプロダクションで時代効果を追加。レンズの圧縮効果で遠近の距離感を喪失させて実際の飛行速度よりも速く見せる錯覚も利用しています。手持ちのiPadで撮った映像もあるとか。衣装からセット、小道具に至るまで、完璧に再現された80年代の田舎町も見もの。バリーがホワイトハウスで、某大物政治家のバカ息子と偶然に隣り合わせるシーンなどは大爆笑ですよ。

 こんな破天荒な犯罪行為が何年も発覚せずに続けられたというのも奇妙な話ですが、考えてみれば同時期に日本ではバブル景気に誰もが浮かれていたわけで、80年代というのは世界的に何かおかしかった時代なのかもしれませんね。

(付記)

共演者の中では、妻の弟でどうしようもなく軽薄なトラブルメイカーを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが印象的。彼は10月27日公開の『ゲット・アウト』にも出演しています。

(『バリー・シール/アメリカをはめた男』は10月21日から公開)

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