”男前”なシャーリーズ・セロンがハードにぶちかますスパイ・アクション『アトミック・ブロンド』

 冒頭、ブルーに染まった画面の中にシャーリーズ・セロンの姿が浮かび上がります。彼女は全裸で氷の浮かんだバスタブに浸かっており、くわえタバコでウオッカをがぶ飲み、そこにデヴィッド・ボウイの歌声が流れてくる…。実にスタイリッシュな導入部で、この一連の流れから想像できるのは、これが「シャーリーズを徹底的にかっこよく見せることを目的に作られた映画である」ということ。

 シャーリーズが演じるロレーン・ブロートンはイギリス情報部MI6に所属する女スパイ。と言ってもセクシーなお色気を武器にしているのではなく、強靭な肉体と身体能力を駆使して、正面から戦いを挑むというスタイルで驚かせてくれます。

スタイリッシュな映像でロレーンの活躍を描き出す
スタイリッシュな映像でロレーンの活躍を描き出す

 舞台は1989年秋、まだ壁が壊される前のベルリン。東西の勢力が暗闘をくりひろげるこの地で、MI6のスパイが殺され、世界中で活動している各国情報員の名前が記録された極秘リストが奪われるという事件が発生してしまいます。ロレーンに上司のグレイ(トビー・ジョーンズ)が下したミッションは、ソ連国家保安委員会(KGB)が奪ったと思われるそのリストの奪還。そして“サッチェル”と呼ばれる謎の二重スパイの摘発でした。

 しかし、弁護士を装って入国した彼女の潜入はすでにKGBに知られていて、到着早々に待ち伏せをされてしまいます。ロレーンはベルリン支部の敏腕エージェント、パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と組んで捜索にあたることになっていましたが、このパーシヴァルがどうにもうさんくさい男で…。張りめぐらされる監視と盗聴の網、次々と襲い来る刺客たち。彼女を欺いた黒幕の正体は? そしてリストの行方は?

 まだ携帯電話出現以前の80年代末を舞台にしたのがミソで、ハイテク機器に頼らない生身のスパイ戦が楽しめます。アクションは真正面からの殴り合いや銃撃戦が主体で、フライパンや冷蔵庫など、そこにある身近なものすべてが武器に使われるという奇抜さも見もの。時にすごいのは終盤、ビルの階段を移動しながら複数の殺し屋と大乱闘するシーンで、これは約7分半ワンカットに見える驚異的なもの。完璧な振り付けのもと、手持ちカメラを駆使したスリリングな映像が展開します。

 本作のロレーン役にほれ込んだシャーリーズは自らプロデューサーも買って出て、3か月間、1日5時間のトレーニングを受けてこのキャラクターを作り上げました。彼女はもともとバレリーナ志望でしたから(少女時代に膝を痛めて断念)、しなやかな動きや複雑な振り付けを覚えることには問題なしなのですね。

 監督はスタントマンやアクション監督出身で、『ジョン・ウィック』の共同監督で監督デビューしたデヴィッド・リーチ。アクションシーンの生々しさ、傷だらけのメイクも厭わないシャーリーズの描き方など、女性主人公の映画らしからぬ骨太さで全編を貫いています。また音楽好きの監督だけあって、80年代のヒット曲が次々と登場。単なるBGM扱いではなく、堂々とフィーチャーされ画面と音楽がシンクロするシーンもありますから、ある種ミュージック・ビデオ的な楽しみ方もできるのです。

 さらに、単純なアクション映画にとどまらず、二転三転する驚きの仕掛けも用意されていますので、最後の最後まで楽しめる作品です。

(付記)

ロレーンは性格も“男前”で、ラブシーンの相手も男性ではなく、DGSE(フランス対外治安総局)所属の女スパイ。この役を演じるのが『キングスマン』で義足の殺し屋を演じ、『スター・トレックBEYOND』『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』とハードな役柄が続くソフィア・ブテラ。さすがにシャーリーズ姐さんの貫録にはかなわないのか、今作では可憐で可愛い表情を見せてくれます。

(『アトミック・ブロンド』は10月20日から公開)

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