『新感染』の前夜にソウルで起こった惨劇を描くホラー・アニメ『ソウル・ステーション/パンデミック』

 

ヘスンは生き延びることができるのか…
ヘスンは生き延びることができるのか…

 先日、日本公開されてヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』には、恐るべき前日譚があった! この映画で実写映画の監督としてデビューを飾ったヨン・サンホはアニメーション映画の監督として知られていて、国内外で高い評価を受けてきました。そんな彼が長編映画3作目として監督したのが、本作『ソウル・ステーション/パンデミック』。そして世界各国の映画祭での絶賛を受けて、その発展形として作られたのが『新感染』なのです。つまり、このアニメ映画こそが原点にあたる作品なのですね。

 蒸し暑い夏の夜のソウル駅。ひとりのホームレスの老人が、首から血を流し、誰にも助けてもらえないまま駅の片隅で死を迎えたことから惨劇の一夜が始まります。このジャンルの映画なら誰しもが想像する通り、老人は凶暴化してよみがえり他人を襲い、襲われた人もまた凶暴化。やがて正体不明のウイルスによるパンデミックが発生するわけです。そんな混乱に巻き込まれる3人の人物を中心に物語が紡がれていきます。

 ヒロインは元風俗嬢のヘスン。店を逃げ出したところを恋人のキウンに救われたのですが、金のないキウンはヘスンの体を売って金を稼ごうと、彼女の写真を出会い系サイトにアップする始末。二人はケンカ別れしますが、一人になったヘスンは夜の街をあてどなく歩くうちに感染者の群れに遭遇してしまいます。一方、サイトを見て連絡してきた客に会いに行ったキウンは、その男が家出中のヘスンを探している父親と知ってびっくり。二人はヘスンを一緒に探すことにしますが、彼らも感染者に取り囲まれてしまいます。

感染者の群れが襲いかかる
感染者の群れが襲いかかる

 疾走する超特急の中でスピーディーに展開する『新感染』とは違い、こちらはオーソドックスなゾンビ映画の趣き。特徴は、アニメ映画なのにマンガ的な表現は一切なく、非常にリアルな作りになっている点にあります。このコンテに従って実写版映画を作ることも十分に可能で、おそらくアニメという表現手段になったのは、単に予算の問題なのではないでしょうか。ソウルの市街でロケをすることも、これだけの人数のキャストを動員し、メイクを施すことも、莫大な資金が必要になりますからね。逆に考えれば、この映画がヒットしたおかげでヨン・サンホ監督は実写版に進出するための資金を得られたとも言えるわけです。

感染者たちの描写も実にリアル
感染者たちの描写も実にリアル

 もうひとつのこの映画の特徴は、韓国の格差社会の現実を鋭く描き出した点にあります。主人公のヘスンたちも犠牲になる人たちもすべて社会の底辺にいる者たちであり(始まりからして地下道のホームレスたちが最初の犠牲者ですから)、警察も軍隊も彼らを守ってはくれません。そればかりか、一般市民をも暴徒と見なして壁を作って封鎖、そこから逃げようとする人々を銃撃することまで行なうのです。そういう意味では、ヘスンたちがクライマックスで逃げ込むのが超高級マンションのショールームというのが、なんとも皮肉な展開です。

軍隊が事態の収拾に乗り出すが…
軍隊が事態の収拾に乗り出すが…

『新感染』では登場人物たちはそれぞれの愛する人を守るために感染者に立ち向かっていきましたが、本作の人々は徹底的に無力で逃げまどうことしかできません。ヒロイズムを廃した徹底したリアリズムと絶望的な描写が心に残る作品です。やがて夜が明けた時、何も知らぬ人々が乗り合わせた早朝のソウル駅を発車する列車に、かろうじて逃げのびた(しかし噛み傷を負った)人物が駆け込むのでしょうね…。

(付記)

ヨン・サンホ監督は社会派のアニメ監督として知られ、第1作は校内暴力が題材で、第2作は新興宗教による人々の洗脳を描いています。その第2作『我は神なり』も日本で10月21日からの公開が決定しています。

(『ソウル・ステーション/パンデミック』は9月30日から公開)

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