ゾンビ映画ファン必見!疾走する超特急の中でパンデミック発生!『新感染 ファイナル・エクスプレス』

 この映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』は正確には“ゾンビ映画”ではなく、“ウイルス感染によるパンデミック映画”なのですが、ここではあえて「ゾンビ映画ファン必見」と言っておきます。スピード感、物量、人間ドラマ、すべてにおいてトップクラス。手に汗握るサスペンスの果てには感動まで押し寄せてくるのですから。

 まだ夜明け前のソウル駅。プサン行きの特急列車KTX101号に、ファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)が幼い娘スアン(キム・スアン)を連れて乗り込みます。仕事にかまけて家庭を顧みず妻との関係が破綻したソグは、今はプサンで暮らす妻のもとに娘を送り届けようとしたのです。定刻の5時30分にソウル駅を出発するKTX101号ですが、その発車直前に挙動不審な女性が駆け込んできたことに誰も気付いていませんでした。やがて発作を起こした彼女は女性乗務員に噛みつき、噛まれた彼女もまた凶暴化。惨劇は瞬く間に車内で繰り広げられていきます。

第一感染者の異変がすべての始まりだった…
第一感染者の異変がすべての始まりだった…

 人間を凶暴化する謎のウイルスが蔓延、感染者に噛まれた者も凶暴化して次の犠牲者に襲いかかっていく。ゾンビ映画の定番設定ですが「死者がよみがえる」のではなく「噛まれた者が瞬時に豹変」、「ゆらゆらと歩く」のでもなく「全力疾走で襲ってくる」という点から、ロメロ監督の『ゾンビ』のような正統派ゾンビ映画ではなく、『バイオハザード』『ワールド・ウォー・Z』などの感染系に分類される作品です。まあ、細かいことはさておき、こうしたジャンル映画好きなら大満足の一作。

混乱した車内を逃げまわる人々
混乱した車内を逃げまわる人々

 まず秀逸なのは、車内にいる人物の視点のみで描かれている点。一旦列車が発車してしまえば、外の世界で何が起こっているかは、列車の車窓から見える景色からしか判断できず、電話や無線で得られる情報から推測するほかありません。これが不安感をつのり、サスペンスを盛り上げていくのです。

 人間ドラマとしての描き方も、それぞれの“熱さ”が強調されていくのが、韓国映画ならでは。最初は自分だけのことしか考えていなかった冷徹なソグが今までの生き方の誤りに気付く姿、愛する娘を守るためにすべてを投げだしていく姿がドラマチックに描かれています。一見粗暴な中年男サンファン(マ・ドンソク)が妊娠中の妻ソンギョン(チョン・ユミ)に見せる優しさ。高校の野球部員ヨンググ(チェ・ウシク)とマネージャーのジニ(アン・ソヒ)の純愛など、それぞれのキャラ描写も明確。醜いエゴをむき出しにして、自分たちが生き残るために生者を見殺しにしようとする人たちの姿もしっかり描かれていて、それを代表する形のバス会社常務ヨンソク(キム・ウィソン)のなりふり構わぬ行為には戦慄さえ感じます。それぞれのキャラが血の通った人間として描写されているからこそ、観客は彼らと同化して映画の中に入っていけるのです。

愛する者を守るため、男たちは戦いを決意
愛する者を守るため、男たちは戦いを決意

 そして、何と言ってもこの映画最大の見どころは、スピード感と物量です。まさに危機また危機、一難去ってまた一難の連続で、気を抜けない手に汗握る描写が続きます。列車内のパニックだけでは単調になる恐れがあるからでしょう、列車は一度テジョン駅に停車、舞台は駅構内に移ります。降りた人々がそこでさらなる恐怖に遭遇、再び車内に逃げ込んだ際に離ればなれになってしまい、再会するための戦いを強いられる、というあたりの作劇はお見事。独特の動きをしながら襲いかかる感染者たちの迫力はすさまじいもので、100人以上のエキストラとCGIを駆使し、徹底的な破壊と混乱を描き出していきます。

 昨年のカンヌ映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門での上映から火が付き、世界中の映画祭で大絶賛、各国でリメイクの動きがあるというのも納得の快作です。

(付記)この映画の監督ヨン・サンホはもともとアニメ監督。彼の2本のアニメ作品も近日日本公開が決定し、まずは『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚とも言える、深夜のソウル駅周辺での惨劇を描いた『ソウル・ステーション/パンデミック』が9月30日から、“信仰”という名のもとに庶民を迷わす牧師と、その欺瞞に気付いた中年男の戦いを描く『我は神なり』が10月21日から公開されます。

(『新感染 ファイナル・エクスプレス』は9月1日から公開)

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この映画の前日譚にあたる『ソウル・ステーション/パンデミック』のレビューはこちらにあります

コン・ユがソン・ガンホやイ・ビョンホンと共演したサスペンス『密偵』のレビューはこちら