麻薬中毒でホームレスのストリートミュージシャンと一匹の猫の出会いが奇跡を起こす『ボブという名の猫』

 どこからか迷い込んできた一匹の野良猫が、どん底の人生を送っていた男の人生を劇的に変えていく…。麻薬中毒でホームレスだったストリートミュージシャンが書いた自伝小説「ボブという名のストリート・キャット」は本国イギリスでベストセラー1位を独走、世界30以上の言語に訳され、続編2冊も含めると世界で1000万部を超える売り上げを記録、日本でもTV番組の中で紹介されたことがあるので、ご存知の方もいるでしょう。この風変わりで感動的な実話の映画化に挑んだのは『英国王のスピーチ』の製作チーム。監督を『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のベテラン、ロジャー・スポティスウッドがつとめています。

ホームレスで売れないストリートミュージシャンのジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)は、ヘロインのせいで緊急搬送され、更生担当者(これをTV「ダウントン・アビー」のジョアンヌ・フロガットが演じています。出番は少ないながら印象的)から「こんど麻薬をやったら死ぬかもしれない」と警告されます。しかし担当者は彼に住居を見付けてくれ、その引っ越しの日に、どこからか茶トラの猫が迷い込んできたのです。近所に住む女性ベティ(ルタ・ゲドミンタス)は猫にボブという名を付け、彼に飼うように勧めます。ボブはジェームズがコヴェント・ガーデンで演奏するのについてきて、猫を連れて演奏する彼の姿は評判を呼ぶことになりますが…。

 こう書くと単純なサクセスストーリーのようですが、実際にはジェームズの前に立ちふさがる障害の多さといったら…。

 まず、彼は兄をドラッグで亡くした経験のあるベティが「ドラッグ依存症患者には近づきたくない」というのを聞いて、自分が更生中であることを言い出せません。当然、これは彼女と付き合い始めた後に問題化します。友人がドラッグのオーバードーズで死亡するのも目の当たりにしますし、演奏中に犬を連れた通行人から嫌がらせをされ、トラブルを起こしたことで路上演奏の資格を剥奪されてしまいます。父親やその再婚相手、義妹たちから毛嫌いされていることも明らかになり、彼を打ちのめします。仕事を失い、「ビッグ・イシュー」の販売人として再起を図り、ボブのおかげで人気を集めますが、これもささいなトラブルからできなくなってしまうのです…。

 まさにどん底。そこからジェームズはいかに這い上がっていくのか? それにはボブの存在が欠かせないものでした。ジェームズの演奏をうっとりと聴くボブ、雑誌を売るジェームズの肩の上に乗っているボブ。その姿はインスタグラムやYouTubeで話題になり、世間の注目を集めていたのです。やがて出版社がジェームズに彼らの物語を書かないかと依頼してきて…。

ボブはジェームズの肩にいつも乗っているのです
ボブはジェームズの肩にいつも乗っているのです

 人生のセカンドチャンスを描いた感動の物語。ジェームズが薬物中毒になったのは、彼が自堕落な性格だったからではなく、繊細すぎるためにどうしようもなく追いつめられていったことが明らかになっていくので、彼がドラッグを断って更生しようとする姿を観客も応援したくなっていくのです。

 猫のボブは、なんと一部に本人(本猫と言うべきでしょうか…)も出演。ジェームズとハイファイブ(ハイタッチ)をしてくれるのは本当のことで、その可愛さが映画を引き立ててくれるのです。音楽は実際のジェームズのものではなく、チャーリー・フィンクが書き下ろしたもの。シンプルでありながら心に残るメロディーになっています。撮影は実際にロンドンの各地で行なわれ、ロンドン好きにはたまらない風景が登場します。

(『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』は8月26日から公開)

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