ナチス親衛隊大将暗殺を描く『ハイドリヒを撃て!』しかし、その果てに待っていたのは凄惨な報復だった…

 正式なタイトルは『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』。サブタイトルにある「ナチの野獣」とは、ナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒのこと。ヒトラー、ヒムラーに次ぐナチスのナンバー3で、“ユダヤ人絶滅政策”を推進し、その残虐性から「金髪の野獣」「プラハの死刑執行人」と呼ばれた人物です。

 1941年冬、ナチス統治下のチェコに、イギリス政府とロンドンのチェコ亡命政府の指令を受けた二人の軍人ヨゼフとヤンが降り立ちます。彼らの目的はナチス親衛隊大将ハイドリヒの暗殺でした。コードネームは「エンスラポイド(類人猿)作戦」(この映画の原題でもあります)。彼らに協力を要請されたプラハのレジスタンスは「奴を殺せばヒトラーはこの街を潰す。家族や友人は皆殺しにされるぞ」と反対しますが、ヨゼフは「愛国者なら国のために命を落とす覚悟が必要だ」と反論。かくして愛する祖国の未来を信じて、翌42年6月、無謀とも思われる作戦は実行されますが、その先に待ち受けていたのは、想像をはるかに絶するナチスの報復でした…。

戦時下での緊迫のドラマが描かれる
戦時下での緊迫のドラマが描かれる

 この題材はかつてフリッツ・ラング監督で『死刑執行人もまた死す』、ルイス・ギルバート監督で『暁の7人』として映画化されたことがありますが、今回は製作国にチェコが名を連ねているため、より愛国心が強調された仕上がりになっています。撮影も実際にチェコのプラハで行なわれ、当時の雰囲気を完全再現。映画のクライマックスの舞台になる教会は、内部こそスタジオでのセット撮影ですが、外観は実際に事件の現場になった聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂のものが使われているのです。

 果たして彼らの行為は国を愛するがゆえの勇敢な行動だったのか。それともあまりにも犠牲を多く生み出した短絡的な暴挙だったのか。この映画はその問いに簡単に答えを出すことなく、当時のチェコ国民が置かれた苦境も描き出しています。ハイドリヒの弾圧により地下に潜ったレジスタンス組織は壊滅寸前。密告は奨励され、市民の間には「レジスタンスと関わったら殺される」という恐怖感が広がっているのです。しかし、イギリスにいるチェコ亡命政府はその実態を知らず、「現地で抵抗運動が起きていることを世界に示す」という目的のため、犠牲を顧みない指令を出してしまいます。

 その実行者で、一見、強硬派に見えるヨゼフとヤンにしても、作戦の決行にはためらいがあります。二人は期せずしてプラハで出会った女性に恋をして「生」への渇望も生じてしまうのですから。ヨゼフに扮するのはクリストファー・ノーラン映画の常連俳優キリアン・マーフィー、ヤンは『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のジェイミー・ドーナン。共に若き軍人の揺れる心を演じています。綿密に計画されたはずなのに、いざとなるとドタバタするのは、史実の通り。前半は緊迫感に満ちたサスペンスが展開、一転してクライマックスは延々と続く激しい銃撃戦で圧倒させてくれます。監督・脚本は『フローズン・タイム』のショーン・エリス。

 結果的には彼らの行動は“テロ行為”としか呼べず、「テロや暗殺で世の中を良くすることはできない」ということを逆説的に証明することにもなりました。作戦の決行後、彼らを匿った者や疑いをかけられた者たちに対するナチスの凄惨な報復や拷問を目の当たりにするにつけ、安全圏にいる政府の大義のために使い捨てにされた名もなき人々の姿に、心が痛むのです。

(『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』は8月12日から公開)

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