魔女はこうして生まれる! 人の心の闇に迫るダーク・ファンタジー・ホラー『ウィッチ』

 M・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』で多重人格者に誘拐される女子高生のヒロインに扮し、鮮烈な印象を残したアニヤ・テイラー=ジョイ。彼女がそれに抜擢されるきっかけとなったホラー映画が、この『ウィッチ』なのです。

 1630年、ニューイングランド。ある一家が町を出ていくところから物語は始まります。ウィリアム(ラルフ・アイネソン)とキャサリン(ケイト・ディッキー)の夫婦と5人の子供たち。敬虔なキリスト教徒(ピューリタン)であるウィリアムは、町の人々の堕落した生き方が許せず、聖書に書かれたことに忠実な自給自足生活を送るべく、森の近くの荒れ地にやって来たのです。

 しかし事件は起こります。長女トマシン(アニヤ)がほんの少し目を離した間に、まだ赤ん坊のサムが行方不明になってしまったのです。狼に連れ去られたのか。それとも森に棲むという魔女の仕業か…。悲しみに沈む一家を次々に異変が襲い、やがてトマシンこそが魔女ではないかという疑いを皆が持つようになっていきます。疑心暗鬼に陥る一家。そんな中、今度は長男ケイレブ(ハービー・スクリムショウ)が姿を消してしまい…。

 ベースになっているのはニューイングランドの魔女伝説(悪名高き「セイラムの魔女裁判」が始まるのが、この映画の半世紀ほど後のこと)。監督・脚本のロバート・エガース(これがデビュー作)は、ユニバーサルやハマーの古典ホラー映画の大ファンで、この映画の着想を得て以来、徹底的に当時の生活様式や習慣をリサーチ。なぜこの地方で魔女伝説が生まれたのかを解き明かそうとしたそうです。その結果、図書館で発見された当時の農家の建築図面をもとに、カナダのオンタリオ州北部の森の中に、本物の家が建てられました。小道具や衣装もすべて、17世紀の清教徒の家族が使ったであろうものと同じ素材で作られたという凝りよう。照明も人工的な光を用いることなく、昼間は太陽の光、夜はろうそくの明かりだけが頼り。我々現代人が忘れてしまった“真の闇”がここには存在するのです。そして、昼間でもあまり光の射さない森は暗く恐ろしいものの象徴として、“魔女”の姿を浮かび上がらせていきます…。

 最初に述べたように、ウィリアムは敬虔な清教徒。他人にも自分の家族にも厳しく、宗教的規律を求めています。しかし、そんな信念を持った人物ほど、いったんそこが揺らいだ時には脆い存在なのです。そして“悪”はそこにつけこんで来ます。必要以上に信仰心を強調する人間は、実はそれだけ闇を怖れているのではないか? そしてその反動のように、そこからはさらに大きな闇が生み出されていく…。

 派手な見せ場があるわけではなく、特殊メイクやVFXも最小限。決して予算を潤沢に使った大作と言える映画ではありませんが、安っぽさは皆無。非常に丁寧に作られていて、観客を17世紀に生きる家族の日常の中に送り込んでくれます。その中で一家が感じる不安や恐怖が伝播してくるのです。アニヤは同世代の女性がいない状況で思春期を迎える少女の不安定さや、周囲から孤立し追いつめられていく焦燥感を見事に演じ、世界の映画祭で高い評価を受けました。エガース監督もサンダンス映画祭監督賞、インディペンデント・スピリット賞の最優秀初監督作品賞など各賞に輝き、リメイク版『吸血鬼ノスフェラトゥ』の監督に抜擢されるなど、注目の存在になっています。

(『ウィッチ』は7月22日から公開)

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