単なるファーストコンタクトものを超え、大いなる感動を呼ぶSF『メッセージ』

『灼熱の魂』『複製された男』『プリズナーズ』『ボーダーライン』と監督作を発表する度に、その切れ味鋭い演出と毎回意表を突く作品選択で観客を驚かせ続け、この秋公開されるSF映画の金字塔の続編『ブレードランナー2049』の監督にも抜擢されたドニ・ヴィルヌーヴ。カナダ出身のこの鬼才が、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したのが、この『メッセージ』(原題は『ARRIVAL』)です。

しかし、この原作を映画化しようという企画を立てた製作陣も大したものなら、その企画を通した映画会社も大したもの。SFとはいえ、大掛かりな戦闘シーンなどの派手な見せ場があるわけではなく(『インデペンデンス・デイ』あたりとは対極の映画と言えます)、哲学的・思索的とすら言える静かな展開の映画なのですから。

湖畔の家で一人静かに暮らしていたルイーズ(エイミー・アダムズ)は、突然訪れた軍のウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)に連れ出されます。ある日、世界の数か所に巨大な宇宙船のような物体が出現し、地表近くに浮遊しているというのです。その目的は不明。各国は対応に困り、相手の出方をうかがっている国があれば、地球の危機だと感じて交戦の準備に取り掛かっている国もあります。優れた言語学者であるルイーズは、国からの依頼で宇宙船内にいる生命体とコミュニケーションをとることを要求されたのです。彼らが発する音や波動は、何かのメッセージなのではないか? ルイーズは物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)とコンビを組んで、彼らの言語(かどうかさえわからないのですが)の解明に取り組んでいくことになります。

巨大な宇宙船のような物体
巨大な宇宙船のような物体

昔からよく言われる言葉に「SFは絵だ」というのがありますが、まさにそれを具現化したような作品。草原に浮かぶ奇妙で巨大な宇宙船らしき物体の威容(まるでルネ・マグリットやダリの絵画のよう!)、それの内部に入っていくにつれ天地左右が逆転していく浮遊感、中で遭遇する“ヘプタポッド”と呼称される異星人のタコのような足(?)が発する不思議な紋様…。文字で表しただけでは伝わりにくい、映画ならではの強烈なビジュアルの連続です。やがてルイーズはヘプタポッドが発する、刻々と変化する図形のようなものの中にある規則性を見付け、それが言葉であると確信するに至るのですが、世界は彼女の解読を待つことができず、特に中国政府は核攻撃の準備を進め、艦隊を発進させてしまいます。果たしてこの世界はどうなるのか?

ヘプタポッドが発する奇妙な紋様
ヘプタポッドが発する奇妙な紋様

こうした解読作業を進める中、ルイーズは娘のハンナと過ごした日々の思い出に浸っています。赤ん坊の時代、可愛かった幼い日々、しかし彼女は反抗期を迎え、病に倒れ…、今はもういない娘の記憶、あの時してやれなかったことへの悔恨が彼女の胸によみがえるのです。一見、本筋には関係ないように見えるこの挿話が、どのように異星人とのドラマと繋がっていくのか。それが判明した時、驚きとともに大きな感動が観客を包み込むことでしょう。ルイーズの内なる心の旅と、世界の命運を賭けた異星人とのファーストコンタクト物語が、見事な融合を見せるあたりがヴィルヌーヴ演出の真骨頂。ルイーズが異星人の紋様を解読しようと悪戦苦闘するくだりは知的興奮の連続ですし、あわや戦争かというクライマックスには緊迫感漂い、ルイーズとイアンの心が通じ合っていくシーンには温かな詩情もあふれます。

この映画を観たことによって『ブレードランナー2049』への期待がますます大きくなってきました。

(付記)

ルイーズたちが接触するヘプタポッドは2体いて、彼女たちがそれに付けたニックネームが“アボット”と“コステロ”。元ネタはアメリカの有名なお笑いコンビ(のっぽのバッド・アボットとちびのルー・コステロ)なのですが、彼らが映画界で活躍したのは40年代。そんな昔のものが現代においても普通に日常会話で使われるあたりにも、アメリカ文化の懐の深さを感じたのです。

(『メッセージ』は5月19日から公開)

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