アメリカとメキシコ国境の砂漠で、極限のサバイバル劇が幕を開ける『ノー・エスケープ 自由への国境』

 アメリカとメキシコの国境地帯。それぞれの思惑を抱えてアメリカへの不法入国を企てる人々と密入国ブローカー。だが、彼らを待っていたものは…。

『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロンが製作にあたり、彼の息子ホナス・キュアロンが監督・脚本・編集・製作を担当した緊迫のサバイバル劇。トランプ大統領の誕生、そしてメキシコ国境への“壁建設”発言が話題になっている時期なので、とてもタイムリーに感じられる映画ですが、実はこの作品が構想されたのはトランプ政権発足よりもかなり先んじた7年前のこと。あの『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソとホナスの共同脚本。アカデミー監督賞をアルフォンソが受賞したほか、数々の映画賞で脚本賞に輝いた)が執筆される以前のことだったのです。

 モイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)ら15人の不法移民は、メキシコからアメリカへの密入国を企てていました。当初は車で国境を越える予定でしたが、エンジントラブルにより、荒れ果てた砂漠を徒歩で踏破することに。モイセスの願いは、アメリカにいる息子に会うことでした。歩く速度の差からいくつかのグループに寸断されてしまう移民たち。モイセスは歩みの遅い人をかばって後続のグループにいました。その時、突然の銃弾が先行しているグループを襲います。襲撃者の姿はどこにも見えませんが、正確な射撃は次々と移民たちの命を奪っていきます。モイセスたちわずかな生き残りは辛くも逃げ出しますが、そこは身を隠す場所のない砂漠。通信手段も武器もなし。水も食料も乏しい状況で、摂氏50度近い熱波も襲ってきます。この絶体絶命の窮地を逃れることができるのか…?

 主人公モイセスに扮するのはアルフォンソ監督の出世作『天国の口、終りの楽園。』で世界の注目を浴び、いまや国際的に活躍しているメキシコ映画界を代表するスター、ガエル・ガルシア・ベルナル。本作では製作総指揮にも名を連ね、全編ほぼ出ずっぱりの熱演を見せてくれます。彼らを付け狙う謎の狙撃者サムを演じるのは『ウォッチメン』やTV『ウォーキング・デッド』などで印象的な演技を見せたジェフリー・ディーン・モーガン。単なる“悪役”として描かれるのではなく、彼の側にも“正義”(しかも、きわめて今日的なもの)を存在させることによって、追うものと追われるもののスリリングな一対一のドラマを作り上げているのです。

 人間の存在をちっぽけなものに感じさせてくれる砂漠のロケーションが圧巻。ロケハンには2年以上の歳月をかけ、世界中の砂漠を見て回ったそうですが、結局選ばれたのはメキシコのバハ・カリフォルニア・スル州の砂漠地帯。街から遠く離れた場所で、実際にも携帯の電波の届かない僻地。気温は38度を越え、強烈な陽射しを遮るものもないという過酷な環境のもとで、スタッフもキャストも苦しみながら撮影が行なわれたのでした。それを知ると、俳優たちの必死の形相がよりリアルに迫ってきます。

 現実でも、不法移民の流入を“侵略”だと考える退役軍人などが自警団を結成し、重武装で国境地帯を警備しているという実態があります(移民だけでなく麻薬組織の跳梁を未然に防ぐという狙いもあるのですが、中には単なる白人至上主義者もいます)。この映画で描かれていることが実際に国境地帯のどこかで行なわれているのかもしれない。そう思わせてくれる怖さが、ここにはあるのです。

 この映画の、「二人の人物が、何もない場所で、常に観客の注意を引き付け続ける」というフォーマットが、『ゼロ・グラビティ』の発想のヒントになったそうで、同作の原点としての楽しみ方もできます。ひとつのアイディアがどのように形を変えて二つの作品になっていったのか、フィルムメーカーの立場から観るのも興味深いのです。

(付記)

この映画で大きな役割を果たしているのが、サムの愛犬で頼れる相棒でもあるトラッカー。この犬には演技のできる犬ではなく、あえて警備が専門の犬を選択。襲撃シーンにリアリティをもたらしています。

(『ノー・エスケイプ 自由への国境』は5月5日から公開)

『ゼロ・グラビティ』のレビューはこちらにあります

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