『3月のライオン〔後編〕』自らの居場所を探し続ける高校生棋士の戦いは、ついにクライマックスに

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中学生でプロ棋士としてデビュー、将棋の世界で生きていくことを誓った高校生・桐山零(神木隆之介)を描く人気マンガ(原作・羽海野チカ)の映画化。後編では“家族”の問題がクローズアップされていきます。

零は9歳の時、両親と妹を交通事故で亡くしてしまいます。彼を引き取って育ててくれたのは、父の友人だったプロ棋士の幸田柾近(豊川悦司)。幸田家にはプロ棋士を目指す娘・香子(有村架純)と息子・歩がいて、その家で暮らすには零も将棋に強くなる必要がありました。しかし、努力の末、彼が将棋に類まれな才能を発揮したことが、香子と歩の夢を打ち砕くことになり、幸田家を崩壊に追い込んでしまいます。いたたまれなくなった零は幸田家を出て一人暮らしを。そんな彼は、川本家の三姉妹、あかり(倉科カナ)、ひなた(清原果耶)、もも(新津ちせ)と出会い、ようやく自分の居場所らしきものを見出していきます。しかし…。

三姉妹と知り合って約1年。今では当たり前のように彼女たちの家で食卓を囲む零。もはや完全に家族の一員です。しかし、川本家には次々と難題が降りかかります。まず、ひなたが学校で同級生をかばったのがきっかけで逆にいじめの標的にされてしまうという事件が発生。さらに、彼女たちを捨てて家を出て行ったはずの父親(伊勢谷友介)が突然現れ、耳を疑うような要求を押し付けてきたのです。零は彼なりの方法で彼女たちを守ろうとするのですが…。

何度も家族を失ってきた零にとって、川本家こそが、かけがえのない“家族”。それを守るため、彼は強くなりたいと願い、自分にできることをしようとします。しかし、いかに将棋が強かろうとも、悲しいかな彼はまだ高校生。想いは空回りし、独り相撲になってしまうことも…。そんな零の必死さが、たまらなく愛おしい。本来、将棋の世界での彼の成長を描く、というコンセプトからすれば、この川本家関連のエピソードは映画化の際に省かれてもおかしくはないところです。しかし、そんな家族(大切な人々)に対する彼の想いもまた、棋士としての零の強さの要因である、という考えからなのでしょう。どんな小さなエピソードも丁寧に描写され、物語に厚みを加えていきます。

もちろん、将棋に関する部分のドラマも見ごたえたっぷり。将棋界の頂点である、獅子王のタイトル保持者・宗谷冬司(加瀬亮)への挑戦権をめぐって、熱いバトルがくりひろげられていきます。傍若無人に見える後藤正宗(伊藤英明)にしても難病で入院中の妻のことで頭を悩ませていますし、零の師匠格の島田開(佐々木蔵之介)は故郷の山形の人々からの期待に押しつぶされそうになっています。零を幼い頃からライバル視している二階堂晴信(染谷将太)もまた、自分の病と闘っているのです。すべての登場人物が、それぞれのトラウマを抱え、懸命に生きている。零と、義理の姉にあたる香子との、愛憎半ばする関係などもスリリング(この映画での有村架純はかなり凄まじい!)。誰一人として“とりあえず配置したキャラ”などは存在せず、それぞれの背景のドラマを感じさせる人物ばかりです。前後編合わせて4時間半以上という上映時間は、それゆえに必然だったと言えるのかもしれません。

原作はいまだ連載中の作品なので、エンディングは映画オリジナルのもの。原作者が構想していたものを大友啓史監督が受け取り、独自の展開を作り出しています。前後編でかなりの時間を付き合ってきたのにも関わらず、「もっと、この続きが観たい…」、そう思わせてくれる余韻に満ちた終わりを味わってください。

(『3月のライオン〔後編〕』は4月22日から公開)

(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会