夜の京都で展開する摩訶不思議な青春ラブストーリー・アニメで星野源が声の出演『夜は短し歩けよ乙女』

 原作・森見登美彦、監督・湯浅政明というTV『四畳半神話大系』のコンビが再結集した作品。夜の京都を舞台に描かれる、ちょっと風変わりでファンタジックな青春恋愛映画です。原作本のあのカバーの絵(中村佑介・作)がそのまま動き出す、というだけで期待感いっぱい。登場人物がやたらとお酒を飲んでいますが、観ているこちらも酔ってしまいそうな浮遊感と酩酊感にあふれた作品です。

 大学のクラブの後輩である“黒髪の乙女”(声:花澤香菜)に想いを寄せる“先輩”(星野源)は、彼女の気を引くために「ナカメ(なるべく、彼女の、目に止まる)作戦」を実行していました。その夜も彼女の周辺をうろうろしている先輩でしたが、天真爛漫な(しかもすごい酒豪の)彼女が好奇心のままに歩き続けるのを追ううちに、次々と起きる不思議な出来事に巻き込まれていきます…。

 乙女が出会うのは、「夜のはしご酒」「古書市」「学園祭」というイベント性たっぷりなもの。実は原作は夜だけに限った話ではなく独立したエピソードが並んでいるのですが、映画版はこれらを同じ一夜の出来事に見えるように再構成、連続性を持たせながら四季の移ろいも感じさせるという不可思議な世界に落とし込んでいます。先輩と乙女のラブストーリーでありながら、誰とでもすぐ友だちになってしまう乙女によって人々がどんどん繋がっていく話でもあるのがポイントで、孤独だったと思っていた人々は実はそうではないことを見出していきますし、先輩も、恋をしていながら「あと一歩」が踏み出せなかった(ひたすら外堀を埋めていただけ)ところを超えていく、という感動要素もあるのです。

 湯浅監督独特の、多少パースが狂っていても勢いのままに疾走していく感覚の演出が快感。たとえば「詭弁論部」に代々受け継がれている「詭弁踊り」などは、文章を読んだだけでは具体的なイメージが想像しがたいのですが、映像化されることによって強烈なビジュアルで観客に迫ってきます。三階建電車やゲリラ演劇、先輩の妄想の中でのもう一人の自分“ジョニー”など、いずれもアニメならではのダイナミズムで、後半に挿入されるミュージカル場面なども、映像でしか味わえないお楽しみです。

 声優陣も適材適所。主人公の“先輩”役に星野源が起用されていますが、歌も歌わせて宣伝に役立てようとしたのではなく(主題歌を担当するのはASIAN KUNG-FU GENERATION)、純粋にキャラクターを買われての起用だったそうで、監督から星野(一面識もなかった)に直筆の手紙を送ってのオファーがあったとのこと。もうひとりの主役である(実際にストーリーを動かしていくのは彼女ですからね…)“黒髪の乙女”の花澤香菜も実に魅力的。彼らを囲んで、神谷浩史、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之といった人気声優陣、ベテランの山路和弘、麦人に加え、お笑い界からはロバートの秋山竜次(これが意外に好演)、ミュージカル女優の新妻聖子も参戦という豪華版。『四畳半神話大系』のキャラクターがそのまま出演しているのもお楽しみです。アニメ的にデフォルメされて描かれる“夜の京都”もまた魅力的で、こんな街を歩いてみたいという気分にさせてくれます。ただし、お酒を呑むシーンが多いので、お子様には勧められないかな? 大人のためのファンタジー・アニメです。

(付記)

湯浅監督は初のオリジナル作品である『夜明け告げるルーのうた』が本作に続いて5月に公開。こちらはすべての世代に向けたファンタジー・アニメーションです。

(『夜は短し歩けよ乙女』は4月7日から公開)

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会