『海賊とよばれた男』”戦後”を支えた人々の姿に感動、そして老齢の役作りに挑んだ岡田准一に驚愕

主演は岡田准一ですが、なんと彼は回想シーン以外の大半を60歳以上という設定で演じています。大河ドラマ『軍師官兵衛』でも終盤は老けメイクで演じた経験はありますが、今回は冒頭から老けた姿で登場。堂々たる風格で、まるでベテラン大御所俳優のような佇まいを見せているのです。まずはその点に驚愕。監督は『永遠の0(ゼロ)』でも岡田と組んだ山崎貴、もちろんVFX監督も兼任しています。原作も同じ百田尚樹、出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした主人公・国岡鐵造の一代記です。

B29の群れが上空を覆いつくし無数の焼夷弾が降り注ぐ昭和20年の東京大空襲。なすすべもなくそれを見つめることしかできなかった鐵造は、終戦後、廃墟の中で奇跡的に焼け残った国岡商店本社に集まった社員たちの前でこう宣言します。「愚痴をやめよ。日本人がおる限り、この国は必ず再び立ち上がる。心配ばすな、一人も首にはせん」その瞳には、かつて“海賊”と呼ばれ、周囲と衝突しながらも、誰もが驚くようなアイディアで難局を乗り切ってきた若き日の輝きが戻っていました。しかし、そんな彼を敵視する人々も多く、彼の国岡商店はなかなか本業の石油販売を許可されません。苦難の中、彼と店員たちは一丸となって戦い続けていくのです。

まだ主要燃料が石炭だった時代に石油の将来性に目を付けるも、新参者ゆえに販路を広げることができずに苦労した若き日々。兄の紹介で結婚したユキ(綾瀬はるか)との幸せな暮し。満州へ渡り、満鉄(南満州鉄道株式会社)に車軸油を売り込みに行き、海外の石油メジャーとの対立を生んでしまったこと。戦争で失われてしまった店員の若き命…。こうした過去の出来事が、戦後復興にむけて立ち上がった現在と交差する形で描かれていきます。甲賀(小林薫)、柏井(野間口徹)、東雲(吉岡秀隆)、長谷部(染谷将太)、武知(鈴木亮平)、藤本(ピエール瀧)といった店員たちが、時にぶつかり合いながらも鐵造を支えていくのです。

既得権益がはびこる石油業界において、常に先を見据え、破天荒な発想と行動力で前に進み続ける鐵造は、実に魅力的。商売人としての誇りを捨てず、店員たちとの絆を何よりも大切にするその姿には、理想のリーダー像を見るようです。岡田は鐵造の内側からほとばしってくるような“熱さ”を、少ない動きの中で表現。岡田准一ではなく、“国岡鐵造”としてスクリーンの中に存在しています。

山崎監督作品だけにVFXも大活躍。冒頭の東京大空襲シーンを始め、焼け跡の東京、雪の満州、戦前の門司の町並みや国岡商店社屋、タンカー・日承丸の進水式や航行シーン、イランの港アバダンなど、CGと実写、ミニチュアを巧みに組み合わせることによって再現。巨大なセットを建造する手間や費用をかけることなく、時代の空気を作り上げる“山崎マジック”とでも言うべきものがここでも堪能できます。

クライマックスは、石油メジャーの包囲網によって輸入ルートを断たれた国岡商店が起死回生の一手として、自社のタンカーを直接産油国のイランに向かわせた“日承丸事件”。この場面では、森田船長に扮した堤真一の演技が光ります。改めて見まわせば、『ALWAYS三丁目の夕日』『永遠の0』『寄生獣』といった山崎監督の過去の作品の主演者たちが一堂に会しているわけで、かなり贅沢な布陣の映画なのです。

何よりも観終わって強く感じたのが「働くことの尊さ」。単に給料をもらい生活の糧を得るということだけでなく、未来のために、誰かのためになることと信じて危険な状況(特に旧海軍の石油備蓄タンクの底を浚うという困難な任務)にも立ち向かっていく。辛い環境をも、“働く喜び”に変えてしまう。そんな国岡商店の人々の姿に胸が熱くなるのです。戦後の焼け跡から立ち上がり、高度経済成長の礎を築いた人々の群像は、いつの時代でも学ぶべきものは多いのではないでしょうか。

(付記)

そんな人々の心意気を表すもののひとつが、劇中何度か歌われる「国岡商店社歌」。その作詞は山崎監督自らが担当しています。

(『海賊と呼ばれた男』は12月10日から公開)