記憶の欠落したラングドン教授に迫る魔手。彼は人類滅亡の危機を救えるのか?『インフェルノ』

トム・ハンクスが演じるハーヴァード大学宗教象徴学者ロバート・ラングドンを主人公にしたダン・ブラウン原作のベストセラー小説の映画化。『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』に続く第3弾です。本来ならばシリーズ3作目は『ロスト・シンボル』なのですが、フリーメイソンを題材にしているため敬遠されたと思われ、新作の『インフェルノ』が先に映画化されました。監督は全作通じてロン・ハワードが担当。基本的に続編は手がけない方針だったハワードですが、このシリーズだけはよほど気に入ったようで、毎回新たな切り口でラングドンに謎を解かせていきます。

プロローグ。一団の男たちに追われて逃げ続ける男(ベン・フォスター)。高い塔の上で追いつめられた男は、ついに自ら地面に身を投げてしまいます。

一方、病室のベッドで目覚めたラングドン。頭には銃で撃たれたと思しき傷があり、この数日のことがまったく思い出せません。しかも、ここはイタリアのフィレンツェ。なぜ自分はこんな場所にいるのか? 記憶をたどる暇もなく、病室に銃を持った襲撃者が。ラングドンは女医のシエナ(フェリシティ・ジョーンズ)の協力でかろうじて脱出に成功します。やがて彼のポケットにあったペンライトから、詩人ダンテの神曲「地獄篇(インフェルノ)」に秘密が隠されているらしいことがわかりますが、博物館でダンテのデスマスクを調べにいった彼は、それが盗まれたことを知ります。しかも防犯カメラに残された映像によれば、盗んだ犯人はラングドン自身だったのです! なぜ自分がそんなことをしたのかも思い出せないラングドンは、警察からも追われる身になってしまいます。

今回のラングドンは事件の全容を知ることもなく、ひたすら狙われ、追われ続けていきます。観客もまた「?」の連続で、ラングドンと共に真実を求めて駆け回ることになるわけです。博覧強記、天才的な頭脳を誇るラングドンも、今回は手掛かりの不足と頭の傷の影響からいつもの冴えがなかなか見られません。その分、サスペンスはいやが上にも盛り上がっていくわけで、このハラハラの連続はシリーズ随一でしょう。「記憶がないまま追われる」という共通点から見ると、『ボーン』シリーズから派手なアクションを抜いたようなもの、と言えるのかもしれません。包囲網を敷かれ逃走不能と思われる中から、どうやって脱出するのか…というスリルはたっぷり味わえますよ。

さて、次第に明らかになるのは、冒頭で身を投げて死んだ男がめぐらせていた陰謀でした。彼の名はゾブリスト。大富豪の生化学者で、「このまま人口増加が続けば環境破壊で人類は滅亡する」と唱えていた人物です。彼は「人為的に人口を減らす」という目的のために強力なウイルスを開発し、拡散させる計画を立てていました。犯行予告時間まですでに24時間を切っています。ラングドンはなぜこの事件に巻き込まれたのか? そして迫りくる大災害を防ぐことはできるのか?

今回のキーになるのはダンテの神曲と彼のデスマスク、そしてボッティチェリが描いた「地獄の見取り図」ですが、さらに名所旧跡の数々が次々と登場。フィレンツェのヴェッキオ宮殿の「五百人広場」、ボーボリ庭園、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ベネチアのサンマルコ広場やドゥカーレ宮殿、トルコ・イスタンブールのアヤソフィア。歴史ある都市の観光名所が舞台になっているのもこのシリーズの醍醐味です。謎解きが苦手な人でも、観光気分で楽しめる映画です。さまざまな歴史うんちくも投入されていて、一度観ただけでは覚えきれないほど。

冷静に考えれば、“敵”の計画自体がまわりくどく、かなりの無理があるものなのですが、観ている間は気にならないほどのテンポで物語はぐいぐい進んでいきます。事件全体の構造が見えてきてなお、最後の最後まで見せ場が連発し、息つく間を与えないのです。さすがはロン・ハワード監督、これがオスカー監督の演出力かと感心させられました。

(『インフェルノ』は10月28日から公開)