『ある戦争』アフガンの戦場で平和維持軍が起こした悲劇を、我々は他人事として見ていられるのだろうか…。

 国連の平和維持軍(PKF)として紛争地アフガニスタンに駐留しているデンマーク治安部隊の兵士たち。市民を守るべく派兵された彼らが、戦場で許されない罪を犯してしまう…。アカデミー外国語映画賞にノミネートされた、緊迫のヒューマン・ドラマです。

 長年紛争の続くアフガニスタンへ、平和維持軍として派兵を続けているデンマーク。現地で兵士たちはタリバンから市民を守るため地雷の除去作業を行なっていましたが、兵士の一人が足を吹き飛ばされて死亡する事件が起き、不満が爆発しそうになります。駐留軍隊長のクラウス(ピルー・アスベック)は、自ら先頭に立つことで部下の士気を高めようと、翌日からのパトロールに同行することを決めます。その日、タリバンからの助けを求めて村人の一家が来ますが、「明日行くから」と帰してしまうクラウス。

 だが翌日、その村を訪れたクラウス率いる一隊が見たものは、昨日の一家の惨殺死体でした。「自分が見殺しにしたのか…」と自責の念にかられるクラウス。そこに何者かが攻撃を仕掛けてきます。敵の位置も掴めぬまま、防戦一方で追い詰められていく部隊。首に被弾した部下ラッセはすでに虫の息に…。彼を救わなければ。しかもこのままでは全滅してしまう。そう考えたクラウスは敵がいると思われる場所に空爆を要請。かろうじて傷ついた部下を連れての脱出を果たします。しかし部下の命を救ったその決断は、結果として幼い子供を含む、多くの一般市民の命を空爆で奪っていたのでした…。司令官命令で強制帰国させられたクラウスは、軍事法廷で裁かれることになります。

 前半はどこから銃弾が飛んでくるかわからない緊迫した描写で極限状態の戦場を描き、後半では法廷サスペンスが展開する見ごたえあるドラマ。『偽りなき者』などの脚本に参加し、これが監督3作目というトビアス・リンホルム監督が、主人公クラウスを中心にその周辺の状況をじっくりと描いています。問われるのは人間の尊厳と命の尊さ、そして家族の絆です。

 映画は過酷な戦場の描写と並行して、母国に残されたクラウスの家族、妻のマリア(ツヴァ・イヴォトニー)と子供たちの様子も描き出します。まだ幼い3人の息子たちは父の不在を寂しがり、時に問題行動を起こしてマリアを困らせるのです。そう、故国の家族にとっても、これは“戦争”なのですね。もしクラウスが軍事法廷で有罪になれば、4年間の懲役。それは家族にとっては耐え難い長さです。戦争は“家族が一緒に過ごす”という当たり前の幸せをも奪ってしまうのです。

 守るべき家族の将来に対する不安と、罪もない民間人を犠牲にしてしまった罪の意識にさいなまれるクラウスに向けて、法廷では容赦のない質問が次々と投げかけられます。争点はPID(敵兵の存在確認)の有無。しかし、瞬時に判断しなければ部下も自分も死ぬという極限の状況で、ほかに何ができたというのでしょうか…。彼や証人になった部下たちの証言は? 果たしてこの裁判はどう結審していくのか?

 責任感あふれるリーダーで、それゆえ苦悩して憔悴していくクラウスを演じたピルー・アスベックは、現在ハリウッドでリメイク中の日本のマンガ「攻殻機動隊」の実写版映画化『GHOST IN THE SHELL』でバトー役を演じている俳優。今後は国際的な活躍も期待できそうです。

 戦場における正しい行為とは何なのか? 重たい問いを投げかけてくる映画です。そしてこれは我々日本人にとっても決して他人事ではない物語なのです。もし戦場に送られた日本の自衛隊が同じ状況に陥ったら、彼らはどうすればいいのでしょうか…。そんなことを考えてみる契機になりうる作品です。戦争は誠実な人間をも簡単に殺人者に変えてしまうものなのですから。ちなみにこの映画では、戦場での行動の是非は問われても、派兵それ自体を疑問視する声はとうとう出ないままなのでした…。

(『ある戦争』は10月8日から公開)

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