映画ならではの”リアル”を追求した意欲作『秘密 THE TOP SECRET』死者の記憶は何を語る?

『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督の新作。原作は清水玲子の同名人気コミックです。死者の記憶に潜入し、迷宮入り事件の謎を解く“MRI捜査”という画期的な捜査方法を開発した警察庁特殊脳内捜査チームの活躍を描きます。

 今からさほど遠くない近未来。警察庁に科学警察研究所法医第九研究室、通称“第九”が設立されます。室長を務めるのは冷静沈着な男・薪剛(生田斗真)。彼の指揮の下、新人捜査官の青木一行(岡田将生)に与えられた任務は、家族3人を殺した罪で死刑になった露口浩一(椎名桔平)の脳に残った記憶を探査、一人だけ行方不明になっている長女・絹子(織田梨沙)を見付け出すこと。しかしモニターに映った画像を見て捜査官たちは息を呑みます。そこには死刑執行された露口が冤罪だったかもしれない映像が映し出されていたのです。捜査の過ちを認めたくない警察上層部は事件の再調査案を却下。しかし第九は当時事件を担当し、露口を逮捕した真鍋刑事(大森南朋)を無理やりチームに引き込み、真相を追っていきます。

 やがてこの事件は、謎の連続自殺事件に繋がっていき、その陰には史上最悪の凶悪犯と呼ばれた貝沼清孝(吉川晃司)の姿が見え隠れします。かつて日本中を震撼させ、逮捕された後に獄中で死んだ貝沼。しかし、その脳にアクセスし、記憶を読み取ろうとした第九の捜査官は次々と自殺。薪の親友で第九創設者の一人である鈴木克洋(松坂桃李)も貝沼の脳内を見た直後に錯乱、貝沼の脳を破壊した後、死亡していたのです…。いったいそこには何が残されていたのか? 

 映画は原作の二つのエピソードを繋ぎ合わせる形で展開。凶悪犯・貝沼と、謎の少女・絹子に焦点を当てながら、そこに様々な謎を散りばめていきます。最大の謎は、薪の親友である鈴木が、自分の命と引き換えにしてまでも隠し通そうとした“秘密”とは何か、というもの。それを知るために、薪は自らが鈴木の記憶と向き合うことを決意するのです…。

“脳内に残る死者の記憶”と言っても、実際に見たことのある人はいないわけですから、それをいかにして映像化するのかが、この映画の最大のポイント。大友監督は、そこに正面から向き合っていきます。――肉体から切り離された瞬間に脳はただの物体になってしまう。しかも脳細胞は徐々に死んでいくので、何か別のもので補わなければならない。脳の記憶を見るということは目で見るのではなく脳で見るはずだ。人の記憶は主観だから、映像も客観的なものではありえない、そこに感情のフィルターがかかってくるのでは?―― そんな問題点をひとつひとつ取り上げ、解決していこうとしたのです。主観映像を撮るために、演じる俳優自身の頭にカメラを取り付け、当人が見た映像としてそのまま映画に使用しているのもその一環(したがって、撮影者として俳優たちの名前がちゃんとクレジットされています)。主観と客観、夢と現実、自分の感情と他者の記憶が入り乱れ、自他の境界線さえあやふやになっていく世界。それを映画的なリアリティで描き出し、観客をめまいがするようなスリルと興奮の中に導いていくのですね。

 リアルさの追及は近未来世界の描写にも表れています。現在と地続きでありながらも“今のニッポン”を想起させる生活感あふれる描写はあえてカット。フランク・ロイド・ライト的な近代建築と、アジア的な混沌をミックスし、俳優のスーツのシルエットなども“未来の流行”を考慮したものに変えているのです。第九のMRIルームなどのセットもしっかり作り込まれており(安っぽさをまったく感じさせないのは邦画では珍しいことです)、ここにも映画的リアリティが感じられます。こうした理詰めの映画作りが、個人的にはすごく好みなのです。

 また、俳優たちから高い評価を受けているのも大友作品の特徴。実際に「この映画に出たかった…」という声が多数上がっています。それは大友監督が俳優から“特別な何か”を引き出す能力に長けているからではないでしょうか。最近は出演作を見るたびに新鮮な驚きを与えてくれる生田斗真が薪役で強烈な存在感を示しているのは、ある意味当然としても(この演技を観て、『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』と同一人物だとはすぐには信じられないほど!)、今回特筆すべきは岡田将生の成長でしょう。これまで“気の弱い、ちょっといいひと”の軽い現代的青年の役を得意としてきた(そうした役にキャスティングされる傾向があった)彼を、あえて陰影があり性格的にも激しさを持つ青木役に起用したのです。しかもこの青木、原作とはかなり設定が変えられ、家族を殺された(犯人はいまだ不明)上に寝たきりで意識不明の父親の介護にも追われている状況です。彼を過酷で複雑な環境の中に放り込み、単純ではない(心に闇を抱えるところまで追い込まれている)演技を要求する。その結果、今までに見たことのない、一つ殻を破った岡田将生が誕生したと言えるのかもしれません。一人の役者から骨太な演技を引きずり出すために、ここまでするのか…。役者冥利に尽きると言っても過言ではない話で、だからこそ「大友作品に出たい」という俳優たちが多くなるのでしょうね。

(付記)

基本的には陰惨な話なのですが、最後の最後には心温まる優しい映像が流れます。ジェットコースターに乗りおわった後の余韻のようなものかもしれません。

(『秘密 THE TOP SECRET』は8月6日から公開)

(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会