愛犬とテロ騒動とNY住宅事情…『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』

ものすごい数の出演作があるモーガン・フリーマンだけに、やはりベテランのダイアン・キートンとはこれが初共演とは意外でした。この『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』ほ、そんな二人が長年連れ添った老夫婦を演じたハートウォーミングな一編。

ブルックリンの美しい景色を一望できるアパートメントの最上階。家庭菜園もあり、画家のアレックス(フリーマン)と愛妻のルース(ダイアン)にとってはアトリエも完備した理想の部屋です。しかし欠点がひとつ。エレベーターがないのです。老齢になったアレックスや10歳になる愛犬のドロシーには毎日の階段の上り降りが苦痛。やむなく彼らはルースの姪で不動産エージェントをしているリリー(『セックス・アンド・ザ・シティ』のシンシア・ニクソン)の勧めもあって家の売却・買い替えを決意、購入希望者の内覧会を開くことになります。

しかし内心ではまだ家への愛着を捨てきれないアレックスは、事あるごとにルースと口論に。そんな中、愛犬ドロシーが急病になり、獣医に手術が必要と宣告されてしまいます。折悪しく、ニューヨークではタンクローリーが横転して道を塞ぐ事故で大渋滞が起き、やがてそれは大掛かりなテロ騒動に発展して街は騒然。次々と訪れる買い手候補と会いながらも新居を探さねばならないアレックスとルースの悩みの種は尽きません…。

脚本を読んだモーガンが気に入り、自ら製作総指揮も買って出て映画化となった作品。原作小説では主人公はユダヤ人ですが、彼に合わせて設定を変更、ラストも原作とは違うものになっています。

40年前、若き日のアレックスが新婚の妻ルースを連れて移り住んだ頃は、まだブルックリンはニューヨーカーから田舎扱いされる場所。黒人の夫と白人の妻のカップルが奇異の目にさらされることもありました。そんな二人の若き日の思い出が巧みに挿入され(しかも演じる若手俳優たちが特徴をよく捉えています)、夫婦の絆と街の移り変わりを描き出しているのです。ブルックリンからマンハッタンまで、ニューヨークの名所の数々が映し出され、この街がもうひとりの主役と言える作品でもあります。

家の売買がテーマの映画ですが、驚きなのはその実情。日本では通常、不動産屋が値段を付け、それを基準に交渉が始まります。しかしニューヨークでは買い手側による入札で価格が決定するのです。もちろん最高値を付けた買い手が有利。少しでも安く買いたい買い手と、高く売りたい売り手の間で駆け引きが行なわれるわけです。しかもアレックスたちの住まいは、ブルックリンの人気物件なので評価額は約100万ドル! 1億円近い金額の取引を他の候補者の顔色を見ながら制限期間内に決めなければならないのですから、これは相当なプレッシャー。もちろんアレックスたちが新居を決める際にも同じ決断を迫られます。もし売却額が購入額を下回れば、借金を抱えてしまうわけですから…。

この内覧会にやって来る買い手候補たちの人間模様がユーモアたっぷりで見どころのひとつ。購入前だというのに勝手にリフォーム計画を考える者がいるかと思えば、情に訴えてなんとか選んでもらおうとする者あり。ただ他人の家を見て回るのが趣味と思しき人、親に振り回されてしらけきっている子供…。『リチャード三世』『ウィンブルドン』のリチャード・ロンクレイン監督が、そんな多種多様なキャラクターをうまくさばいています。

街を騒がせているテロ事件はどう決着するのか? 愛犬ドロシーの手術は成功するのか? そしてアレックスとルースの新居選びはどうなる? いくつか並行する事象を週末の数日に集約した人間ドラマ。エンドクレジットに流れるヴァン・モリソンの歌声を聴く頃には、心の中にじーんと暖かいものがこみ上げてくる作品です。

(『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』は1月30日から公開)