『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』欲望が生んだ歪んだ貧困社会の現実とは…

(写真:REX FEATURES/アフロ)

2007年末から2008年にかけてアメリカで発生したサブプライム住宅ローンの不良債権化は、連鎖的に投資銀行の破綻などを招き、いわゆるリーマン・ショックとして世界経済を恐慌に陥れました。この金融パニックの最中、それに巻き込まれてしまったある家族の姿を通して、現代社会の闇と人々の絆をサスペンスフルに描いた作品です。

舞台となるのは、全米で最も住宅の差し押さえ率が高かったフロリダ州。大工として働き、息子や母親(ローラ・ダーン)と暮らすシングルファーザーのデニス(アンドリュー・ガーフィールド)は、未曾有の大不況のあおりをくらって収入が激減。住宅ローンを滞納して、裁判所から自宅と土地の明け渡しを命じられてしまいます。突然家を訪れた不動産業者と保安官は、強制退去か逮捕されるかの二者択一を迫り、デニスの一家は住み慣れた家を追い出されることに。貴重品をまとめて家を出されるまでの猶予はたった2分間でした…。

彼らが移り住んだモーテルは、同じように行き場を失った人々であふれていました。当面の生活費にも窮するデニスは、なんとか仕事を探しますがうまくいきません。そんな彼に手を差し伸べたのは、強制執行の日に一家を追いやった不動産ブローカーのカーバー(マイケル・シャノン)。だが彼から与えられる仕事とは、かつての自分と同じ立場の人々を陥れ、家を差し押さえて大儲けするという悪どいビジネスだったのです。金のためには法の穴をくぐり抜け、政治家や銀行と繋がり、庶民たちを食い物にしていくダーティな世界に足を踏み入れていくデニスの運命は…。

この映画の原題は『99 Homes』、邦題のサブタイトルにも『99%を操る男たち』とあります。この数字はノーベル賞経済学者ジョセフ・E・スティグリッツがその著書「世界の99%を貧困にする経済」の中で唱えた「世界中の富の四分の一をたった1%の富裕層が所有しており、残り99%は貧困層である」という説からとられたもの。

その99%の一員にすぎない貧困家庭が幸せを手に入れるには、1%の仲間入りをするためには、モラルを捨て、悪魔に魂を売らなければならないのか? 映画はこの部分に切り込んでいきます。主人公デニスは家族を愛しささやかな幸せを求める平凡な男にすぎません。成功し成り上がりたいという野心など持っていないのです。ただ息子や母親に思い出のつまった家を取り戻してやりたいと願っていただけ。しかしそのための手段とは、誰か他の人々を破綻させ、踏み台にするというものでした。もちろんデニスが喜々としてこうした行為に手を染めたわけではありません。彼は苦悩し、家族にも自分のしていることを告げられないでいます。やがて代償を支払う日が来ることを恐れながら…。愛する人たちのためにしたことで孤立感を深め、周囲からも白眼視されてしまう悩める男・デニスを演じるのは『アメイジング・スパイダーマン』で主人公ピーター・パーカーに扮したアンドリュー・ガーフィールド。その頼りなげで不安に満ちた視線が観客を彼の立場に同化させ、物語の中に引き込んでいきます。

対するカーバー役はマイケル・シャノン。『レボリューショナリー・ロード』でアカデミー助演男優賞候補になり、『マン・オブ・スティール』では悪役ゾッド将軍を演じた演技派俳優。単なる悪役を超えたカリスマ的な魅力を持ち、独特の哲学を語るその姿は、『ウォール街』でマイケル・ダグラスが演じたゴードン・ゲッコーを彷彿とさせるものがあります。彼にもまた、悪の道に足を踏み入れた理由があるのですが、そのあたりに説得力を持たせるのも名優ならでは。このカーバー役でもゴールデングローブ助演男優賞候補になりました。

監督・脚本はイランからの移民二世であるラミン・バーラニ。共同脚本に『CUT』のアミール・ナデリが名を連ねているのも目を引きます。リアリティにこだわる監督は、強制退去を迫る保安官や家具を家の中から外に運び出すスタッフなど、すべて実際の経験者を起用。デニスが立ち退きを迫る家の住人たちの役も、プロの俳優に混じって本当の住人を多く使っています。事前にそれ(相手がプロなのか素人なのか)を知らされることなく演技させられたガーフィールドは、監督によって故意に演技の予測のできないカオスの中に置かれ、物語に迫真性とサスペンスを加えているのです。

(付記)

この状況をウォール街のサイドから描いた作品が3月公開の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』です。併せて観れば、当時の狂騒的な背景や、結局は富裕層だけが勝ち逃げし庶民が苦しめられる実相が見えてきます。

(『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』は1月30日から公開)