過去を探る知的ミステリーの先に待ち受ける戦慄と恐怖『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』

小野不由美の小説「残穢(ざんえ)」が山本周五郎賞を受賞した際、選考会の場で「手元に本を置いておくことすら怖い」という感想が語られたといいます。そんな作品の映画化に挑んだのは中村義洋監督。近年は『ちょんまげぷりん』『奇跡のリンゴ』『予告犯』など、心あたたまる終わり方の映画が目に付きますが、もともとはOVA『ほんとにあった「呪いのビデオ」』シリーズなどのホラー系が出発点。原作者がこのビデオの熱狂的大ファンだったことから直々の指名となり、久々に原点復帰することになりました。

主人公は原作者自身を思わせる女流作家の「私」(竹内結子)。怪談雑誌に連載を持ち、読者から募集した体験談をもとにした短編を発表しています。そんな彼女のもとに、久保さん(橋本愛)という女子大生から一通の手紙が届きます。「今住んでいる部屋で奇妙な音がするんです。何かがいるような気がします…」と。好奇心を抑えられなくなった「私」は久保さんと一緒に調査を開始します。すると、そのマンションの住人たちが引越し先で心中や自殺、殺人など数々の事件を引き起こしていることが判明。しかしなぜ、彼らは“この部屋”ではなく別々の場所で不幸な末路をたどったのか? 「私」と久保さんは、作家の平岡芳明(佐々木蔵之介、モデルは作家の平山夢明)、心霊マニアの青年・三澤徹夫(坂口健太郎、これも作家の福澤徹三がモデル)、そして「私」の夫で作家の直人(滝藤賢一、当然モデルは綾辻行人)らの協力を得て、さらに調査を進め、過去へ過去へと遡っていくことに。その果てにたどり着いた真相とは…。

中古住宅に転居する際、そこが事故物件、つまり殺人や自殺が起きた部屋ではないかということを気にする人はいます。しかし、そこにマンションが建つ前はどんな土地でどんな人が住んでいたかまで調べる人はほとんどいないでしょう。ましてやそのさらに以前(たとえば100年前)がどうなっていたかに及んでは。もしもそれを調べることによって、触れてはいけない過去の「穢れ」を目覚めさせてしまったとしたら…。

この映画の面白い点は、あくまでもミステリーの手法で展開し、あからさまなホラー映画的描写がほとんど出てこない点にあります。「私」や久保さんの調査はドキュメンタリー・タッチで描かれ、何人も登場する証言者たちも役者っぽくない人が使われているので、徹底してリアルなタッチで進行していきます(あえて特殊メイクなどに頼らず、雰囲気のある人を選んだ、と監督も語っていました)。一枚一枚薄いベールを剥ぐように明らかになっていく過去の事実の積み重ねは、上質のミステリー小説を読んでいるようで知的好奇心をくすぐられるのです。しかし、「穢れ」の図式が次第に明らかになり、平岡が言うところの「すべてが繋がっていく」状態になった時、これが本当の恐怖の始まりにしか過ぎなかったことが判明します。登場人物も観客も、ここで一気に恐怖の本質を知らされ、震え上がることになるのです。

この転調はお見事。変な言い方ですが、「いい感じに“嫌な気分”にさせてくれる映画」と言うことができるでしょう。いわゆるスプラッターやゴアと呼ばれる具体的な残酷描写はありませんので、そういうのが苦手な方でも充分楽しめますが、見終わったあとにザワザワしたものが心の奥底に残る作品なのです。

(付記)

いつも体温が低そうな感じで、物静かにボソボソと喋る「私」役の竹内結子の演技が印象的でした。ハイテンションな佐々木蔵之介とは好対照。

(『残穢―住んではいけない部屋―』は1月30日から公開)