アクション・スター、キアヌ復活!『ジョン・ウィック』すべては一匹の犬のために…。

この映画、身も蓋もない言い方でダイジェストすると、「愛犬を殺された敵討ちで強大なロシアンマフィア組織を壊滅させる男の話」です。そんなばかな、と思われるかもしれませんが、こうした過激なエスカレーションがこの映画の魅力のひとつ。

映画は愛妻を亡くした主人公ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)の悲しみにくれる姿で幕を開けます。葬儀の席で親友マーカス(ウィレム・デフォー)が慰めの言葉をかけますが、それで癒えるような喪失感ではありません。そんなジョンのもとに、一匹のビーグル犬が届けられます。亡き妻が病床で、残されるジョンのために贈ってくれた最後のプレゼントでした。ジョンは妻の形見とも言えるこの犬デイジーと、愛車69年式フォード・マスタングでドライブに出かけ、次第に心の平穏を取り戻していきます。しかし、この名車に目をつけた者がいました。ロシアンマフィアのボス・ヴィゴ(『ミレニアム』三部作のミカエル・ニクヴィスト)のドラ息子・ヨセフ(アルフィー・アレン)です。親の威を借りてわがまま三昧のヨセフは、深夜にジョンの家を襲撃。車を強奪したばかりか、行きがけの駄賃にとデイジーを惨殺してしまいます。

ところが…。ヨセフが持ち込んだ車を見た盗難車ディーラーのオーレリオ(ジョン・レグイザモ)は血相を変え、息子から事件の顛末を聞いたヴィゴは激怒します。「お前は誰に手を出したかわかっているのか!」そう、ジョンこそは、今は引退しているものの、かつては数々の信じがたい伝説に彩られた、超一級の殺し屋だったのです!

この、「たいしたことないヤツだと思って手を出したら、じつはとんでもない大物だった」というのは、アクション映画の王道パターン。「田舎のダイナーの主人だと思ったら…」の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)、「ただの年寄りだと思ったら…」の『RED』(10)、「質屋のパッとしない兄ちゃんだと思ったら…」の『アジョシ』(10)など、数多くの映画でこのシチュエーションが効果的に用いられていて、観客にカタルシスを与えてくれます。今回のキアヌ扮するジョンはその中でもかなりの大物。暗黒街で語り継がれる「ジョン・ウィック伝説」があまりにも荒唐無稽すぎてヨセフならずとも笑っちゃうようなレベルなのですが、それがすべて真実だったとは!

今回、キアヌが見せるのはカンフーとガンアクションを融合させた「ガンフー」という新しいもの。打撃系だけでなく、柔道や柔術といった組み技系の格闘技の動きもミックスされ、すさまじい迫力をもたらしています。監督は『マトリックス』でキアヌのスタント・ダブルを演じ、『エクスペンダブルズ』などでスタント・コーディネーターとして活躍していたチャド・スタエルスキ(これが初監督)。さらに『ボーン』シリーズのスタント担当もスタッフに参加して、その道のプロたちによって型が練り上げられていきました。それに応えたキアヌもノースタントで撮影に臨み、撮影開始の数ヶ月前から訓練に入って一日8時間の猛特訓。一時は体型の変化を危惧されていた彼も見事な肉体改造で引き締まったボディと身のこなしを見せてくれます。

そしてまた、寡黙なキャラクターがキアヌにはお似合い。ジョンは自らの内面を饒舌に語るようなタイプではないのですが、その表情から妻への愛と、その後に手に入れたたったひとつの心の拠り所を奪われた怒りと悲しみをにじませ、ハードボイルドな魅力たっぷり。ニューヨークの高級ホテルの裏側には「殺し屋コミュニティ」のようなものがあって、そこでは厳しい掟が定められているといったひねった設定も楽しいです。

凄腕の殺し屋と言っても、『イコライザー』のデンゼル・ワシントン(彼も「ただのホームセンターの店員だと思ったら…」パターンでしたね…)とは違い、細かなテクニックを駆使するのではなく、堂々と正面突破する戦い方が中心ですが、それもまた無骨で不器用なキアヌらしいと言えるのかもしれません。傷だらけになりつつも、決して妥協せず戦い続ける彼の姿には胸が熱くなります。この映画、全米では大ヒットを記録し、早くも第2弾の製作が決定したようです。キアヌにとっては『マトリックス』シリーズ以来久々のシリーズ化。アクション・スター、キアヌの復活を素直に喜びたいですね。

(『ジョン・ウィック』は10月16日から公開)