深海の密室で展開する息詰まるサスペンス『ブラック・シー』

映画業界でよく言われる言葉に「潜水艦映画に外れなし」というものがあります。閉ざされた空間、限られた登場人物、外の敵に気付かれることを防ぐためにはじっと沈黙していなければならず、さらにもし船体が損傷すれば深海では命取りになる…、こんな極限状況が観客にも緊張感を与え、スリルとサスペンスに満ちた映画が作り上げられるわけです。古くは『海の牙』『眼下の敵』から、『U・ボート』『レッド・オクトーバーを追え!』『クリムゾン・タイド』『U‐571』など。そんな潜水艦映画の系譜に連なる新たなる一本が、この『ブラック・シー』なのです。

イギリス海軍で15年、現在の会社で11年、海洋サルベージの専門家として仕事一筋で生きてきたロビンソン(ジュード・ロウ)でしたが、不況のあおりをくらってリストラされてしまいます。再就職のあてはなく、陸上での仕事の目処も立たないため、妻も12歳の息子も彼のもとを去ってしまいます。そんな彼に耳寄りな情報が。第二次大戦時に莫大な金塊を積んだUボートが黒海のジョージア(旧称:グルジア)沖に沈没、そのまま放置されているというのです。

一攫千金を狙ったロビンソンはこの情報に飛びつき、イギリス人6人、アメリカ人1人、ロシア人5人という混成チームが結成されます。しかし手に入れることができたのは老朽化したロシア製のディーゼル潜水艦だけ。急ごしらえで編成されたメンバーの足並みも揃わない状況で、ロビンソンたちはUボートが横たわる海域を目指すのですが…。

ここからは、潜水艦映画の見どころのオンパレード。まず、目標の海域はロシアの領海のため、海上を通るロシア海軍に探知されぬよう、深く静かに潜行しなければなりません。大きな音を立てれば命取り。しかし船体はオンボロであちこちにガタが来ている上、乗組員には素人同然のまだ18歳の若者が急遽参加しているのです…。

イギリス人とロシア人の対立も危機的状況に拍車をかけます。言葉が通じないことに端を発した互いへの不信感は、金塊の分け前をめぐる欲望の噴出により、次第に制御不能になっていくのです。金塊を手に入れるまでは互いに必要な存在ですが、いざとなったらどうなるのか…。

潜水艦の周りに広がるのは、暗く静かな死の世界。もし船体に何かあれば…。船外で作業を開始する潜水夫たちにも様々なアクシデントが襲いかかります。やがて彼らは、金塊か自分の命か、という二者択一を迫られることになるのです。

この映画を監督したのは『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したケヴィン・マクドナルド。リアルな描写の連続で、まるでドキュメンタリーを見ているような迫真性をも感じさせてくれます。監督が目指したのは「潜水艦を舞台にした『恐怖の報酬』と『黄金』」だそうで、確かにその名作を想起させる緊迫感にあふれています。なんとイギリスのケント州の港町ロチェスターを流れるメドウェイ川には個人コレクターが所有するロシアの潜水艦が係留されているそうで、実際にその船内や艦上で撮影が行なわれています(監督はすべてを船内で撮影したかったそうですが、さすがにそれは不可能でした…)。

ジュード・ロウも4日間、イギリス海軍の原子力潜水艦の航海に同行。潜水艦員の生活や任務、狭い艦内での過ごし方や精神状態を学んで行きました。彼は労働者階級の主人公を演じるために、頭髪を剃っただけでなく、肉体改造で体を一回り大きくしたそうです。息子に金を残したい、成功して家族を取り戻したい、そしてずたずたにされたプライドを再生させたい。エゴと欲望とプライドでギラギラした瞳の輝きを持つ、欠点も多いロビンソンは、ジュードが演じたことによって生き生きと存在感を増しているのです。

女性がほとんど登場しない男くさい映画で、重苦しく息苦しい描写の連続ですが、こうした重厚なサスペンス映画がお好きな方にはおススメできる作品です。

(『ブラック・シー』は8月15日から公開中)