NY完全包囲網、リーアム・ニーソン絶体絶命!『ラン・オールナイト』

スペイン出身のジャウマ・コレット=セラ監督とリーアム・ニーソンはよほど気が合ったのでしょうか、この『ラン・オールナイト』が、『アンノウン』(11)『フライト・ゲーム』(14)に続く3度目の顔合わせになります。

どの作品も単純なアクション映画ではなく、ひとひねりした設定がサスペンスを盛り上げる見ごたえある作品でした。今回の『ラン・オールナイト』もそうですが、ニーソンの役どころが『96時間』シリーズのような「最強の男」設定ではなく、弱点や欠点を抱え、心の弱さをさらけだしている人間味あふれるキャラクターなのが特徴です(でもやっぱり普通人よりはかなり強いのですけどね)。

今回、彼が演じるジミーは闇の世界で長らく殺し屋として生きてきた男。仕事のために家族を捨てた形になり、一人息子のマイク(『ロボコップ』で主人公マーフィを演じたジョエル・キナマン)とは疎遠になっています。しかし、ある日偶然にもマイクが殺人現場を目撃して口封じのために殺されそうになってしまい、それを救おうとしたジミーは、こともあろうにマフィアのボス・ショーン(エド・ハリス)の一人息子を射殺してしまったのです。ショーンとジミーは固い絆で結ばれた30年来の親友でしたが、ショーンはマイクに宣告します。「お前の息子を殺して、お前も殺す」と。かくして、父と子の決死の逃避行が始まるのでした…。

舞台はニューヨーク。ジミーとマイクを狙うのはマフィアが放った追っ手だけではありません。組織に買収された悪徳警官だらけなので警察は信用できず、父子が殺人犯として大々的に指名手配されてしまったので、一般市民もまた彼らの敵に回ります。それに加えて、最強最悪の殺し屋プライス(ラップ・ミュージシャンでもあるコモン)が送り込まれるのです。まさに四方はすべて敵だらけの完全包囲網、絶体絶命の危機。その中でジミーとマイクは、マイクの家族を守りながら逃げ切ることができるのか?

カーチェイス、格闘アクション、追っ手に発見されそうなサスペンスと、見どころは前半からてんこ盛り。それでも最初のうちは「周囲に騒動を起こさないように、目立たないように…」という逃走劇なのですが、プライスの登場以降、一気に物語はヒートアップ。関係ない第三者の巻き添えや、大胆な破壊工作も辞さないプライスのせいで、被害は増大し、銃撃戦や爆発シーンも増えてくるのですから。次々と襲いかかるクライマックスの連打に、観る側も疲れすら覚えるほどです。それを手際よく見せているのはコレット=セラ監督の鮮やかな手腕。特に場面転換に大胆なストップモーションやバードアイ(俯瞰描写)によるカメラの移動を用いることで、めまいにも似た効果をあげています。

また、前述したように、キャラクターを掘り下げることで単なるアクション・サスペンスの域を脱した人間ドラマとなっているのも充実している点。ジミーとマイクの父と子の心のすれ違い、30年来の友情で結ばれていたジミーとショーンが敵対するに至った複雑な心境、そして数々の罪を重ねた上に家族に愛情を注げなかったジミーの贖罪…。ジミーが完全無欠なヒーローではなく、家庭人としてはまったくのダメ人間である故に、その心の痛みは観客の胸に響いてきます。演技派ニーソンの実力の見せどころですね。

ジミーを追う(悪徳ではない)刑事にヴィンセント・ドノフリオ、ジミーと確執のある兄エディにニック・ノルティと、名優たちをさりげなく起用しているのも映画の質を上げています。それにしても、還暦を過ぎてなおアクション映画で存在感を見せる(もうじき63歳!)ニーソンには脱帽です。歳を重ねたことによって「ボロボロになった男が疲れ果てた体に鞭打って、強大な敵に立ち向かう」という設定に説得力を持たせているのですから。ニーソンは私立探偵マット・スカダーに扮し、連続猟奇殺人犯に挑むローレンス・ブロック原作のサスペンス『誘拐の掟』も5月30日から公開。こちらも「贖罪」というテーマを内包した、深みのある作品になっています。

(付記)

『ラン・オールナイト』というタイトルを聞いた時、映画にもなった大沢在昌の「走らなあかん、夜明けまで」を思い出しました。もちろん中身は違いますが…。

(『ラン・オールナイト』は5月16日から公開)