ももいろクローバーZ主演、完全無欠のアイドル映画『幕が上がる』

ももいろクローバーZ(以下、ももクロと略)主演の青春映画『幕が上がる』は、まさに王道の「アイドル映画」でした。あ、ちなみにこれ、褒め言葉です。

まずはストーリー。富士山を望む静岡の小都市にある富士ケ丘高校演劇部。全国大会はおろか、地区大会も勝ち抜けず、先輩たちは卒業していきます。新部長に選ばれたさおり(百田夏菜子)の悩める日々の始まりです。新歓オリエンテーションに失敗し、落ち込む彼女は、新任の吉岡先生(黒木華)がかつては学生演劇の女王と呼ばれていたことを知ると、コーチを願い出ます。さおりは演出に専念することになり、演目は「銀河鉄道の夜」に決定。こうして弱小演劇部は、全国大会目指して猛特訓を開始しますが…。

「アイドル映画」ですから、何よりもまずアイドルを魅力的に描かねばなりません。そのイメージを守って、ファンを失望させないこと、これが大事です。監督は『踊る大捜査線』シリーズの本広克行ですが、彼は原作小説(劇作家/演出家の平田オリザ著)を読んだ時に「ももクロをイメージして書いたのではないか?」と思ったほどのインスピレーションを感じたそうです。本広監督とももクロとは、2013年の「ももクロ試練の七番勝負episode3」でも組んだ仲。彼女たちの個性を活かし、キャラクターをそのまま映画の中の人物像に反映させています。部長で頑張り屋のさおりにはリーダーの百田夏菜子、看板女優でお姫様キャラのユッコに玉井詩織、三枚目キャラで盛り上げ担当のがるるに高城れに、一年後輩でしっかり者の明美ちゃんに佐々木彩夏、演劇強豪校からの転校生の中西さんに有安杏果をキャスティング。役柄と俳優の境目を感じさせません。まさに、「虚実皮膜」。これにはモノノフ(ももクロの熱狂的ファン)も納得でしょう。

ももクロの特徴である「ひたむきさ」も画面から飛び出してくるようでした。彼女たちは殺人的なスケジュールの合間を縫って平田氏主宰の演劇ワークショップに参加、現場に台本を持ち込まず、すべて頭の中に入れていたというからすごいです。したがって「セリフを言わされている」感がなく、すべてが自分の言葉として響いてくる。特に、前半の山場である、彼女たちが交代で一人芝居を見せるシーンは5分を超える長回しワンカット。リハーサルなしの一発本番だったにもかかわらず、誰一人セリフや動きをミスることなくやり遂げたそうで、確かにこのシーンからは緊張感が伝わってきました。この映画の公開後、5月からはももクロ主演で舞台版「幕が上がる」が上演されるそうですから、そこでは彼女たちのまた新たな世界が見られることでしょう。

原作者が演劇界の第一人者・平田オリザということもあって、あまり知られていない学校演劇にスポットが当てられているのも興味深いところ。上演時間60分、設置と撤去に30分という制限の中、年に一度、一回の舞台にすべてを賭ける、負けたらそこで終りの世界。本作では、他校の演劇部の生徒役で、実際の高校演劇部の人々が出演、熱演している様子を垣間見させてくれます。

共演者では、何と言っても新任教師役の黒木華が光りますが(同じ教師という設定でも『ソロモンの偽証』とは180度違う役どころ)、常にタイミングを外しまくる顧問役のムロツヨシが良いアクセントになっています。また、メンバーの父兄役で意外な豪華キャストが顔を揃えているのでお楽しみに。

さて、実は筆者はももクロにそんなに詳しいわけではなかったのですが、この映画のおかげで彼女たちを見る目がすっかり変わりました。「アイドル映画」だからといって、そのアイドルのファンだけではなく、今までももクロに興味がなかった人たちにもぜひ観て欲しい作品です。「アイドルを発見し、その新たな魅力に気付かせること」も「アイドル映画」の条件のひとつなのですから。

(付記)

富士ケ丘高校演劇部には、なぜか男子部員がいません。これは青春映画につきものの恋愛要素を排除するため? それもまたアイドル映画の宿命なのかもしれません…。

(『幕が上がる』は2月28日から公開)