カロリー過多だけど、美味しいロードムービー『シェフ/三ツ星フードトラック始めました』

この映画の監督・主演のジョン・ファヴローは大ヒットしたアメコミ映画『アイアンマン』『アイアンマン2』の監督であり、ボディガードのホーガン役で出演もしている俳優として知られていますが、もともとはインディペンデント系で活躍してきた人で、『スウィンガーズ』(96)の脚本兼出演で注目された存在です。そんな彼が、製作・監督・脚本・主演の4役に挑んだのが、この『シェフ/三ツ星フードトラック始めました』です。

冒頭から実に美味しそうな描写の連続! ファヴロー扮するキャスパーはロサンジェルスの有名レストランの総料理長。そんな彼が手際よく料理の下ごしらえをするシーンから始まるのです。今日は有名な評論家が来店する日。彼は独創的な新作でもてなそうと計画するのですが、頑固なオーナー(ダスティン・ホフマン)は定番メニューしか出すことを許さず、結局彼は店を辞めるハメに。しかも評論家のブログで彼の料理(本人の意に介さなかったものなんですけれどね…)は酷評され、キレたキャスパーの言動はネットで拡散。彼は職ばかりか信用も失ってしまったのです。失意のキャスパーはボロボロのフードトラックを改装してのキューバサンドイッチの移動販売を思い付き、マイアミからロスまで、料理を作りながらの旅を始めることに…。

バツイチの中年男。スタイルも良くないし、父親としても夫としても落第。しかし、料理の腕と、美味しいものを作って人を喜ばせたいという情熱だけは誰にも負けない主人公は、とても魅力的。物語は、そんなキャスパーが旅を通じて10歳になる一人息子との絆を取り戻していく姿と、料理人としての彼の再起を描いています。

キャスパーが息子のために焼いてやるクロックムッシュ、マイアミで出会うキューバサンドイッチ、テキサスのBBQ、砂糖をかけた揚げ菓子のベニエ…。いずれも肉と脂とチーズと糖分がたっぷりで、カロリーが高そうな料理ばかりですが、その製造工程をつぶさに見せてくれるので、その旨そうなことといったら! 鉄板でジュージュー音を立てて焼かれるシーンではその香りが漂ってくるような錯覚まで覚えるほどでした。お腹を空かせた状態では観に行かないように注意が必要ですよ(逆に言えば、こんな料理ばかり食べているからアメリカでは肥満が問題になっているのでしょうが)。

名優ホフマン以外にも、『アイアンマン』人脈のロバート・ダウニー・Jr.、スカーレット・ヨハンソンが共演。旅の道連れになるジョン・レグイザモ、評論家役のオリヴァー・プラットなど芸達者な面々が顔を揃えています。ファヴロー監督は、そんな彼らの良さを引き出すため、アドリブ重視の演出を行ないました。実際に彼らのやりとりは、かなりの部分で即興の芝居が使われているそうです。それもまた俳優でもある彼ならではの演出なのでしょうね。

マイアミからニューオーリンズ、テキサスを経てロスへ。アメリカ横断の旅は、その土地柄にもあった陽気なラテン音楽やブルースに彩られていて、こちらもまたいい感じです。

もうひとつ、現在のネット社会を反映した映画でもあるというのもポイント。機械音痴のキャスパーはSNSとメールの区別がつかず、一対一のはずの話を拡散させてしまいます。また醜態を撮影され、それもまたネットを通じて広められます。しかし、彼の再起の助けになったのも、10歳の息子がスマホを操ることによってだったのです。そんなジェネレーション・ギャップを心地よく描きながら、ツイッター・バードが飛び交う中で、「自身は何もリスクを背負うことなく、気軽に相手(この場合は店やシェフ)を酷評することができる」評論家についてのアイロニーが込められているのでは、と感じずにはいられません。これは映画にとっても同じこと。ネットでネガティブな意見を言うことが、どれほど現実の店舗や作品に大きな影響を与えるのか(実際にネットの悪評で閉店に追い込まれた店も多いのです)、もう少し考えてみようよ。ハッピーなサクセス・ストーリーの裏で、そう訴えているようにも思われたのです。

(『シェフ/三ツ星フードトラック始めました』は2月28日から公開)