やはりハ・ジョンウ映画にハズレなし!『テロ、ライブ』

『チェイサー』で連続猟奇殺人犯を演じて注目されたハ・ジョンウは、その後も『哀しき獣』『悪いやつら』『ベルリンファイル』などで強烈な印象を残してくれました。どんな役を演じても、説得力のある演技でキャラクターになりきり、100%自分のものにしてしまう。本国では出演映画が相次いで大成功を収め、「不敗神話」を誇っているそうですが、それも納得の俳優です。

そんな彼が、今回挑んだのはキャスターの役。韓国のとある放送局のスタジオ周辺を主な舞台に、爆弾テロの犯人との緊迫感と焦燥感に満ちたやりとりが、約90分のリアルタイムで進行していきます。

国民的アナウンサーだったヨンファ(ハ・ジョンウ)は、ある不祥事がもとでテレビキャスターの仕事を失い、ラジオ局に左遷されていました。その朝も、いつものようにリスナー相手のやりとりが始まります。だが建築作業員を名乗った相手は「橋に爆弾を仕掛けた」と言い出したのです。いたずらだと思い電話を切るヨンファ。次の瞬間、予告通り漢江にかかる大橋が爆発しました!

再び連絡をとってきた犯人に取引を持ち掛けるユンファ。彼はこの事件を独占スクープし、再び表舞台に返り咲こうと考えたのです。独占生中継で犯人と交渉し、自首に向かわせる。それがユンファの描いたシナリオでした。だがテロ犯は莫大な出演料を要求しただけでなく、かつて起きた悲惨な事件に対し大統領の謝罪を求めてきました。次第に加熱するやりとり。テロ犯は、ユンファの思惑の一歩先を行き、彼を追いつめていきます。スタジオで生中継の最中に爆殺される政府関係者。なんと今ユンファが装着しているイヤフォンにも同じ爆弾が仕掛けられているというのです。なぜユンファは選ばれたのか? 一世一代のチャンスのはずだったのに、窮地に立たされた彼の運命は…?

犯人はほとんど声だけの登場なので、まさに映画はハ・ジョンウ扮するユンファの独壇場。彼の演技が映画を引っ張っていると言えるでしょう。国民の信頼厚い人気キャスターでありながら、裏では汚いことにも手を染め、私生活も崩壊。そんな野心あふれる男の複雑な内面を見事に表現しています。それは、冒頭数分の彼の行動で明らかです。ラジオ番組で受けた連絡にも関わらず、その番組のスタッフを切り捨て、自身のテレビ復帰のための交渉材料にしてしまう変わり身の早さ。身勝手で自己中心的、しかし行動力と素早い決断力のある男。主人公のキャラクターをわずかな時間で観客に知らしめているのですね。決して共感できないタイプでありながら、その一挙手一投足に注目させ、その先が気になってしまうのも、ジョンウが演じているからにほかなりません。

90分という短い時間内にきっちりとまとめあげ、現実と映画内の時間経過をシンクロさせた構成で緊迫感をあおったキム・ビョンウ監督(脚本も彼が執筆)の演出もお見事。ほとんどが放送局内で展開する物語ですが、決して箱庭的なスタジオ映画になることなく、橋の崩落シーンやクライマックスの意外な展開など、CGを駆使した迫力あるシーンも登場し、スケール感はしっかりと出しているのです。これがデビュー作とは思えぬ手腕で、新たな才能の出現を予感させてくれました。

(付記)

「偉くなったら(あるいは偉くなるためなら)汚職は当たり前」「何よりも(時には人命よりも)面子を重んじる」といった韓国社会に対する皮肉がこめられているような気も…。

(『テロ、ライブ』は8月30日から公開)