笑いを封印したジャッキー・チェンの挑戦『ポリス・ストーリー/レジェンド』

まず最初に確認。『ポリス・ストーリー』を冠したジャッキー・チェン映画は何本もあり、彼のキャリアを代表するシリーズと認識されていますが、これを整理しておきましょう。基本は香港警察の熱血刑事チェンを主人公にしたもの。これは85年の『香港国際警察/ポリス・ストーリー』を皮切りに、『九龍の眼(ソフト化の際に『ポリス・ストーリー2』というサブタイトルが付きましたが、初公開時はシリーズもの扱いをされていませんでした)』(88)、『ポリス・ストーリー3』(92)、『ファイナル・プロジェクト』(94)と続きました。純然たるシリーズと呼べるのは、ここまで。93年の『新ポリス・ストーリー』と2004 年の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』は、香港の刑事を主役にしたという以外は別の設定の作品です。そして今回の新作『ポリス・ストーリー/レジェンド』(13)ですが、主人公のジョンは中国本土の刑事であり、やはり別の世界の作品なのです。

ストーリーは…。クリスマスの北京。職務に熱心なあまり家族を顧みなかったベテラン刑事のジョンは、反抗的な態度をとる一人娘のミャオ(ジン・ティエン)に呼び出され、ナイトクラブで久々に再会します。そこで彼女にクラブの経営者ウー(リウ・イエ)を恋人だと紹介され当惑するのですが、直後にウーの態度が豹変。ジョンを縛り上げ、建物と外部との連絡口を完全にシャットアウト。クラブにいた客たちとジョン父娘を人質にとって、警察にある囚人を連れてくるように要求したのです。なぜウーはジョンを罠にかけ、執拗に彼をいたぶるのか? この人質籠城事件の裏には、過去のある事件に関わる秘密が隠されていました。ジョンは娘や人質たちを守るため、たったひとりでの戦いを余儀なくされたのでした…。

冒頭から、銃口をこめかみに突き付けられた涙目のジャッキーのアップという衝撃のカットで幕を開ける本作。密閉状態のクラブの建物内で展開する一夜の出来事という構成で、ジョンや、犯人、人質たちの因縁が、5年前に起きた死亡事件の謎と共に次第に明らかになってくるミステリアスな物語になっています。父と子の絆や生命の尊さに対するメッセージもしっかりと描かれて見ごたえ十分。もちろん、迫力ある肉弾戦や銃撃戦、カーチェイス、ビルからのダイブなどアクション映画としての見せ場もたっぷり。

ここで、「あれ? ジャッキーはアクション映画を引退したんじゃなかったっけ?」と思った方も多いはず。昨年公開された『ライジング・ドラゴン』が「ジャッキー最後のアクション映画」と言われていましたからね。しかし、今回の『ポリス・ストーリー/レジェンド』は、これまでのジャッキー映画とは一線を画しているのです。

初期はコミカルな動きを活かしたクンフー映画で人気者となったジャッキーは、自ら監督も手がけるようになった頃から、より大がかりで命がけのアクションやスタントに挑むようになりました。時計台から落下したり、疾走するバスに傘の柄を使ってしがみついたり、ヘリコプターにぶら下がって街の上空を振り回されたり…、その壮絶アクションは、毎回「いったいどこまでやるの!?」とファンをエキサイトさせてくれたものです。そんな、ひとつ間違えば生死に関わるような(実際、彼は頭に大けがをしたことがあります。骨折程度は日常茶飯事)スタントを見せながら深刻な雰囲気に陥らせなかったもの、それは彼のキャラクターが持つ明るさとユーモアの精神でした。激しい戦闘シーンの合間にも、ふっと笑いを誘うポーズやシチュエーションを挿入することによって、娯楽性を高めていたのですね。

今回の映画では、その「笑い」の部分が一切ありません。肉体のアクションもクンフーのような「見せる」ことを重視したものではなく、より実戦的な「戦う」ことに特化したリアル・ファイティングなのです。かっこよく見えることよりも本物らしく見せること。ジャッキーが久々に髪を切って短髪姿でアクションに臨んだのも、「中国公安の私服刑事らしく見えるように」という配慮でした。個人的な悩みや弱さを持つ主人公の欠点も描きだされ、キャラクターに人間味を与えています。

ジャッキー映画に「明るく楽しいアクション映画」を求める人にはいささか違和感のある作品かもしれません。しかし、還暦(映画撮影時は59歳でしたが)を迎えたジャッキーが(まだまだ体力の限界ではないことは、本作での動きを見てもわかりますが)、いつまでも過去の自分にとらわれてはいけない、常に新しいチャレンジを続けるんだ、と語りかけてくるような熱演でした。まだまだ終わらないよ…、そんなジャッキーの気概を感じたのです。

監督は『ラスト・ソルジャー』でもエモーショナルな演出を見せたディン・シェン。悪役のウーに中国の名優リウ・イエをキャスティングすることによって、単なる勧善懲悪ではない深みのあるドラマに仕上げています。

(『ポリス・ストーリー/レジェンド』は6月6日から公開)