アナログ世代に元気をくれる映画『LIFE!』

この映画の原題は『The Secret Life of Walter Mitty』。と聞くと、映画マニアならば「おっ!」と思った方もいらっしゃるはず。原作はジェームズ・サーバーの傑作短編小説「虹をつかむ男」で、現実よりも空想の世界に生きる人間を描いたもの。ウォルター・ミティという名前は夢見がちな人間を表わす代名詞としても定着していて、かつてダニー・ケイ主演で『虹を掴む男』として映画化もされているのですから。しかし、この『LIFE!』が同作の現代版リメイクか、というとそれだけではありません。空想の世界の中でだけヒーローとして活躍している平凡な男、という描写は映画の前半部分だけで、後半はどんどんオリジナルな展開になっていきます。そして、それこそがこの映画の魅力なんです。

主人公ウォルター・ミティ(監督も兼任しているベン・スティラー)は雑誌「LIFE」で地味な写真管理の仕事をしています。不器用で人付き合いが苦手な彼は、片思い中の同僚シェリル(クリステン・ウィグ)に想いを伝えることができず、ただ空想の世界でヒーローとなって活躍することだけが生きがいでした。しかし伝統ある「LIFE」もデジタル化の波には抗えず、経営不振から休刊を余儀なくされてしまいます。ウォルターもリストラの対象に。さらに悪いことに、最終号の表紙を飾るはずの写真が行方不明! ウォルターは冒険家でもあるカメラマンのショーン(ショーン・ペン)を探し出し、なんとかネガの行方を聞き出そうとします。携帯電話すら持たないショーンを追って、ウォルターは北極圏のグリーンランドからアイスランドの火山地帯へ。単調な日常から、ありえないような波瀾万丈の日々に…、そしてそれはウォルターの生き方を劇的に変えていくのです。

目の前の仕事や家庭の事情に追われ、夢を追いかけることを忘れてしまった平凡な男。一歩を踏み出すことを恐れ、ただ空想の中に逃避していた彼が、未知の世界に飛び込んでいくことによって、自分自身が閉ざしてしまった可能性に目覚めていく。それを大自然の広大なロケーションと大都会の描写を対比しながら描いています。しかも、「非日常の冒険」だけを賛美するのではなく、「現実を受け止め、毎日の生活を大事にすること」の大切さをも語りかけてくるところが、この映画のいいところです。ラストで明らかになる、「ショーンが一枚の写真に託した想い」は心にしみました。

正直、私はベン・スティラーという俳優の、いつも不機嫌そうに見える表情が苦手だったのですが、今回の映画で見直しました(遅いですね…)。都会人の孤独やペーソスを感じさせる演出スタイルは、次世代のウディ・アレンにもなり得るのでは?

さらに、ウォルターの仕事が写真(ネガやポジ)の管理というあたりが、またアナログ世代にはたまらないものでした。簡単にコピーやバックアップがとれるデジタルの写真とは違い、アナログのポジもネガもワン&オンリー。紛失したらそれっきりの存在なんですよね。しかもオンラインで一瞬にデータを送るというわけにもいかない。だからウォルターも必死でそれを探さなければならないし、管理もとても大変なんです。この映画で描かれたように、歴史と伝統ある写真雑誌「LIFE」は2007年に休刊し、現在はオンラインのアーカイブとなっています。確かに必要な写真をすぐに検索できるようになったことはとても便利です。しかし、それによって失われてしまったものもあるのではないか? 一冊の雑誌が本として読者のもとへ届くまでには、数多くの名も知れぬ人々が関わっている。そんなことも考えさせてくれた映画でした。

(『LIFE!』は3月19日から公開)