『李小龍(ブルース・リー) マイブラザー』はカンフー映画ファン以外にもおすすめの青春映画なのだ

若き日のブルース・リーの知られざる素顔

この人がいなかったら歴史は変わっていただろう。そう思わせてくれる人物はどの世界にもいますよね。そんな中でも、彼がいなければ映画の歴史が確実に変わっていたであろうことは、誰もが認めるに違いありません。その男の名は、ブルース・リー。

彼のようになりたい、彼のすべてが知りたい、彼に関する物なら何でも集めたい……、こうして人生の進む道を変えられてしまった人たちは世界中に数多く存在します。何人ものアクション・スターや格闘家が彼に憧れて武術を始めましたし、サブカルの世界でも彼をイメージしたキャラは数えきれないほど存在します。もちろん、映画界全体に与えた影響は計り知れません。没後40年を迎える今になっても、新たなファンは次々と誕生し、ある種の人々にとっては、彼は「神」にも等しい存在なのです。

そんなブルース・リーの青春時代を描いたのが、この『李小龍(ブルース・リー) マイブラザー』。ブルースの伝記映画と言えば、ジェイソン・スコット・リーがブルースに扮した『ドラゴン/ブルース・リー物語』(93)がありましたが、これは渡米後のブルースをハリウッドの視点で描いたものでした。今回の映画は渡米する以前の香港時代を描くもので、タイトル通り、ブルースの弟であるロバート・リーの製作総指揮&監修で作られています。親族の証言がもとになっていますから、今まで語られなかった素顔がふんだんに語られていて、そこが見どころ。しかし、この映画、単に「ブルース・リー信者」だけのものにしておくには惜しい青春映画なのです。

京劇俳優である両親の巡業中にサンフランシスコで生まれたブルースは、自身も子役として映画に出演。10歳の時に李小龍という芸名を名乗り、少年俳優として人気者になります。映画の舞台となる50年代後半には、町で仲間とともにロックンロールと喧嘩に明け暮れながら、華やかな撮影所の生活も満喫。しかし恋愛には不器用で、幼馴染みの女性に思いを寄せられながらも気付くことなく、帰国子女の女性が気になって仕方ない。しかも、親友が彼女に恋心を持っていると知って悩んだりもします。弟のロバートをパートナーにしてダンスコンテストで優勝した、という有名なエピソードも再現されますが、なぜ女性でなく弟を? という疑問がここで氷解。結局彼は女性二人のどちらも選べなかったのですね。いやぁ、青春だなあ。

『グランド・マスター』などでおなじみのイップ・マンに学んで拳法の腕もみるみる上達。高校対抗のボクシング大会に出場して、イギリス人のチャンピオンをノックアウトし(これも史実)、その後彼とストリートで対決、お互い傷だらけになりつつも友情が芽生えるというベタな展開も楽しいです。クライマックスは麻薬中毒になった友人を救おうと、麻薬組織のもとに乗り込んでの大乱闘。ここでは不安定な足場の上でのアクションという、ちょっとジャッキー・チェン作品を思わせる見せ場が続きます。

マニア向けのお楽しみも充実

この映画のブルース・リーは、後の映画で見られるような求道者然としたたたずまいや、カミソリのように鋭い視線といったものとは無縁で、屈託のない若者として描かれています。ハンサムな映画スターで、強くて、ダンスが上手くて女の子にも人気という、弟目線の「自慢の兄」モード炸裂ですが、自転車に乗れない、女性へのアプローチが下手といった意外な弱点も披露されるので嫌味がありません。これはブルース役を演じたアーリフ・リーの好演あってのことでしょう。ブルース・リーを知らない人が観ても、アクション満載のさわやかな青春映画として楽しめるのです。

もちろん、ファンにはファン向けのお楽しみも。父親役がレオン・カーフェイというのは香港映画ファンには嬉しい配役ですし、ところどころに後のブルースの出演作品からの引用が散りばめられています。撮影所のシーンで本作のアクション監督チン・カー・ロクが特別出演していますが、彼が演じているのが当時の人気俳優シー・キエン。あの『燃えよドラゴン』で鉄の爪を付けてブルースと鏡の間で戦った悪役ハンの若き日の姿だった、と言えばスタッフの遊び心がお分かりいただけるのでは。

余談になりますが、ここで描かれた青春像が何かに似ている、と観ながらずっと感じていました。そしてラストの旅立ちのシーンまで来たところで気付いたのです。これって、アーロン・ジョンソンがジョン・レノンを演じた『ノーウェア・ボーイ/ひとりぼっちのあいつ』(09)と同じ構造だ、と。もちろん、大家族で家族の愛情に囲まれて育ったブルースと、母の愛に飢えていたジョンを同列には語れません。しかしその青春群像の描かれ方、大切な人や故郷への別れといったものに共通点を感じ、調べてみたら、実はブルースとジョンは同じ1940年(ジョンは10月9日、ブルースは11月27日)生まれだったのですね。それぞれの道で世界を変革してしまった男たちは、同じ時代を生きていたのです。その早すぎる死とともに、感慨深いものがありました。

カンフー映画を愛しすぎた男

ついでにもう一本、ヒップホップ界の人気者RZAが監督・脚本・主演・音楽を務めた『アイアン・フィスト』も紹介しておきましょう。舞台は武闘集団が激突を繰り返す戦乱の中国。黒人の鍛冶屋(RZA)は、組織の内乱に巻き込まれ、両腕を切り落とされてしまう。しかし不屈の魂で鋼鉄の腕を作り上げた彼はそれを両腕に装着、復讐の戦いを開始する…という(どこかで聞いたことのあるような)ストーリー。70~80年代の香港製カンフー映画のスピリットにあふれたアクション映画で、展開は(流れる血の量や残虐描写も含めて)「そこまでするか!?」というやりすぎ感たっぷりです。しかも、ラッセル・クロウ、ルーシー・リュー、リック・ユーン、ダニエル・ウーに元プロレスラーWWEのバティスタ、さらにはゴードン・リューことリュー・チャーフィーやチェン・カンタイといった伝説のカンフースターまでが豪華共演という、まさに規格外の作品。ここには往年のカンフー映画に対するオマージュやリスペクトが「これでもか!」と詰め込まれていて、いかにRZAがこうした映画によって人生の進む道を変えられてきたのかが分かる作品に仕上がっています。こちらは明らかにマニア向けですが、その筋の好きな人にはたまらないですよ。

(付記)

『李小龍 マイブラザー』には、『ドラゴンへの道』のテーマ曲が高らかに流れるシーンがあります。日本ではブルース・リーと言えば『燃えよドラゴン』ですが、華僑の多い中国圏では、ローマまで行って白人に勝つこの映画の人気が高い、という話を聞いたことがあります。その真偽やいかに?

(付記2)

で、その『ドラゴンへの道』を再見したら、武術指導にユニコーン・チェン(本作にブルースの仲間として登場)の名が。なんだか、懐かしい人と再会したような気分になれました。

(『李小龍 マイブラザー』は7月13日、『アイアン・フィスト』は8月3日から公開)