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高等教育の負担問題は「「所得連動型」奨学金」の拡充で対応可能

小黒一正法政大学経済学部教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

経済成長で税収増を図り、財政再建と経済再生の両立を図るというのがアベノミクスの戦略の一つであるが、2016年度決算における国の税収(55.5兆円)は当初予算の税収見積もりとの比較で2.1兆円下振れし、前年度比で0.8兆円落ち込み、7年振りのマイナスとなった。これは、日本経済が景気の下降局面に向かい始めている一つの証拠かもしれない。

また、先般(2017年7月18日)、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」の改訂版を公表した。この試算によると、2020年代初頭にかけて実質GDP成長率が2%程度まで上昇する高成長ケース(経済再生ケース)を達成し、2019年10月に予定している消費税率の引き上げを実行しても、2020年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)は8.2兆円の赤字となる。

このような状況の中、安倍首相は先般(6月19日)の記者会見において、「人づくり革命」の推進を打ち出した。高等教育の無償化や大学改革などが柱で、そのエンジンとなる有識者会議(「みんなにチャンス!構想会議」)を設置し、首相は自民党前政調会長の茂木敏充氏を経済財政再生担当大臣と兼務の形で、「人づくり革命」の担当閣僚に任命した。

そして今、安倍首相は、2019年10月に予定される消費税率10%への増税分の使途変更を打ち出し、増税分(約5兆円)のうち約2兆円を利用して、子育て支援や教育無償化(高等教育の負担軽減を含む)等の政策を推進する予定である。

このうち高等教育の負担軽減策としては、「所得連動返還型奨学金」(ICL)の一種であるオーストラリアの「高等教育拠出金制度」(HECS-HELP)等に対する関心も高まっている。教育無償化の財源として、「教育国債」構想も火種として存在するが、現在の財政状況では、「教育」を錦の御旗に、これ以上の国債増発は許容できない。むしろ、日本版HECSの推進や所得連動返還型奨学金の拡充にあたっては、受益と負担の一致を可能な限り図る観点から、(独)学生支援機構は現在も、財投の仕組み等を利用して奨学金に必要な資金調達を行っているため、この財投の仕組みを拡充することが考えられる(詳細は「こちら 」をどうぞ)。

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法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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