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17年4月の消費増税に対する安倍首相の発言は正しい

小黒一正法政大学経済学部教授
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

先般、安倍首相が以下の発言をしたことが、ネット上で若干話題となった。

17年4月の消費増税、予定通り行う=安倍首相(2015年9月4日ロイター)

安倍晋三首相は4日午後、訪問先の大阪市でテレビ番組に出演し、2017年4月の消費税率の引き上げについて、予定通り行う考えを示した。

安倍首相は17年4月の10%への消費税率引き上げについて「予定通り行う考えだ。リーマンショックのようなことが起これば別だが、今の状況であれば、今年の冬のボーナスも来年の給料も上がっていく」と語った

また「消費が伸びていくような様々な政策を打っていきたいと思っている」と語った。企業の投資を促す政策を打っていく考えも同時に示した。

日経ビジネスオンラインに掲載したコラム「2014年4月の消費税率引き上げのインパクトを再考」の分析に従うと、消費税率引き上げに関する安倍首相の現状判断は正しい(注:「冬のボーナスや来年の給料」の指摘は除く)。

理由は単純で、消費増税がマクロ経済に及ぼす影響の大きさは、「実質成長率-トレンド成長率」と定義して評価するのが妥当なためである。

この評価でポイントを握るのは「トレンド成長率」の設定であるが、トレンド成長率の目安の一つとしては、実質GDPの潜在成長率が参考になる。

潜在成長率は供給サイドの概念で、需要サイドの短期的要因で決まる実際の成長率とは異なり、国内にある財・サービスの生産のために必要な資本や労働といった生産要素を「最大限に活用」したときの生産量(実質GDP)の理論的な成長率をいう。

バブル崩壊以降、官民が推計する潜在成長率は一貫して低下傾向にあり、内閣府の推計では、80年代の潜在成長率は4.4%、90年代は1.6%、直近(2015年8月)は0.5%である。この低下傾向は、アベノミクス始動後も変わっていない。

では、一年を四半期で区分し、増税5期前の実質GDPを100として、潜在成長率で伸びた場合の「トレンドGDP」と「実際のGDP」の乖離を評価すると、増税の影響はどう見えるだろうか。

以下の図表は、内閣府データや上記の潜在成長率を利用し、1989年4月の消費税導入時、1997年4月の増税時、今回(2014年)の増税時において、トレンドGDPとの乖離、つまり「実際のGDP-トレンドGDP」の推移を描いたものである。

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増税4期後以降において、89年のケースでは「実際のGDP>トレンドGDP」だが、「平成の金融危機」があった97年のケースでは「実際のGDP<トレンドGDP」で、実際のGDPはトレンドを大幅に下回ってしまっている。

他方、今回(2014年)の増税時の動きをみると、増税3期後や4期後において、実際のGDPとトレンドGDPの乖離は縮小する方向にあることが読み取れる。

現時点で断定は不可能だが、グラフを見る限り、今回の増税がマクロ経済に及ぼした影響は概ねニュートラルである可能性がある。

なお、昨年末のコラムでも指摘したように財政にも異次元緩和にも限界があり、その意味でも、消費税率引き上げに関する安倍首相の発言は正しいと言えよう。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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