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4-6月期のGDP速報値と増税の反動減をどう見るか

小黒一正法政大学経済学部教授

今年4月に消費増税(5%→8%)が実施され、その反動減の影響を含む景気動向に関心が高まる中、内閣府は8月13日に「2014年4-6月期のGDP速報値」を公表した。

増税後の景気動向に関心が高まる理由は、政府が今年6月24日に閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営の基本指針)において、「平成27 年10 月に予定される消費税率の10%への引上げについては、「税制抜本改革法」にのっとって、経済状況等を総合的に勘案して、平成26 年中に判断を行う」旨の記載があり、年末に消費税再増税の政治判断があるからだ。

このような状況の中、内閣府が公表した2014年4-6月期の実質GDP成長率(季節調整値)の速報値が前期比1.7%減であり、消費税導入時(89年4-6月期)の前期比1.3%減)や前回増税時(97年4-6期)の前期比0.9%減よりも大きな落ち込みに見えることから、一部メディアで話題となっている。

しかし、このような見方には若干留意が必要である。消費増税の影響を比較するデータは、「89年(消費税導入時:税率0%→3%)」「97年(前回増税時:税率3%→5%)」「2014年(今回増税時:税率5%→8%)」の3つがある。結論からいえば、トレンド成長率の影響を一定の前提で取り除き、89年・97年・今回のデータを比較すると、今回の4-6月期の落ち込みは89年時よりも若干小さい可能性がある。以下、簡単に説明しよう。

まず、内閣府「四半期別GDP速報」の統計表(1994年1-3月期~2014年4-6月期 1次速報値、2014年8月13日公表)及び平成17年基準支出系列簡易遡及(1980年1-3月期~1993年10-12月期)のデータから、増税前後の実質GDP成長率(季節調整値)の推移を比較してみよう。この推移は以下の図表1となる。

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図表1横軸の「増税期」は「4-6月」、「1期後」は「7-9月」、「1期前」は「1-3月」を表し、増税期における実質GDP減少率(前期比)は、確かに「2014年(1.7%減)>89年(1.3%減)>97年(0.9%減)」の順番で大きい。

ただ、以下の図表2のイメージの通り、消費増税に伴う反動減の影響は、実質GDPのトレンド成長率の影響を取り除いて評価する必要がある。

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例えば、トレンド成長率(前期比)が1.2%の「ケース1」と0.5%の「ケース2」があるとしよう。このとき、増税期の実質GDP成長率(前期比)が同じ2%減でも、ケース1の反動減は3.2%(=2%+1.2%)、ケース2の反動減は2.5%(=2%+0.5%)と評価するのが妥当である。

では、今回及び89年・97年のケースではどうか。80年代の実質GDP成長率(年平均変化率)は4.3%、90年代は1.5%、2000年代は0.7%(リーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機の影響を除くため、2000年-08年の平均を取ると1.4%)であった。

これを四半期データで表現すると、80年代のトレンド成長率(前期比)は約1.1%、90年代は約0.38%、2000年代は約0.35%となる。そこで、この値を「トレンド成長率」と仮定し、各ケースにおいて「図表1の実質成長率-トレンド成長率」を計算したものが以下の図表3である。

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図表3の「増税期」の値を比較すると、消費増税に伴う反動減は「89年(2.4%減)>2014年(2.1%減)>97年(1.3%減)」となっている。つまり、今回の増税に伴う反動減(4-6月期の実質GDPの落ち込み)は、97年ケースよりも大きいが、89年ケースよりも若干小さい可能性を示唆する。

また、今回(2014年)と89年の増税幅は3%であるが、97年の増税幅は2%であったことから、今回(2014年)と89年の反動減が97年よりも大きいことは自然な結果と解釈できよう。

いずれにせよ、上記は現時点での判断に過ぎず、「2014年7-9月期の実質GDP速報値」などが公表されない限り、確たる断定は不可能であることから、今後のマクロ経済の動向を十分注視する必要があることは言うまでもない。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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