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国主導で社会保障予算の分析を:社会保障給付費110兆円>一般会計90兆円

小黒一正法政大学経済学部教授

11月中旬、社会保障改革プログラム法案(正式名称「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」)が衆議院の厚労委員会及び本会議にて可決された。今後は参議院で法案を審議予定だ。

プログラム法は、医療・介護・年金を中心に来年度以降に実施する改革の工程表を記載するもので、前期高齢者(70―74歳)の医療費自己負担の引き上げや、高所得者を対象にした介護の自己負担割合の引き上げ等の検討を盛り込んでいる。

このような負担増を実施せざるを得ない背景には、現在(2013年度)、約110兆円にも達した社会保障給付費の存在がある。現在、年金=約50兆円、医療=約35兆円、介護=約9兆円であるが、2003年度の社会保障給付費は約84兆円であった。

すなわち、社会保障給付費は2003年度から13年度の10年間で、年平均2.6兆円程度のスピードで膨張してきた。消費税率1%の引き上げで約2.5兆円の増税収があると見込まれるが、2014年4月の消費増税(5%→8%)の増税収分を3年で食い潰してしまうような膨張スピードである。

このような状況において、社会保障予算の抑制や更なる増税は不可避であるが、日経ビジネスONLINEの記事(年金給付1%削減で特養入所待ちは解決できる:イメージ図=下記参照)でも扱ったように、社会保障予算内(特に年金・医療・介護)における資源配分の見直しで、改善可能な政策も多いと考えられる。

イメージ図
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というのは、もはや、社会保障給付費(110兆円)は、一般会計(90兆円)よりも20兆円以上も大きな予算となっているためである。一般会計と特別会計を合わせた予算(純計)は約230兆円(2012年度当初予算の歳出)であるが、社会保障給付費(110兆円)はその半分に相当する規模に達する。

一般会計予算については様々な精査が行われるものの、社会保障予算の精査は手薄であり、社会保障給付費の中身を分析する意義は大きい

この関係では、厚労省で設置された「社会保障給付費の整理に関する検討会」が、2011年に公表した「社会保障給付費統計等の整理の方向性」が重要であり、この資料には以下の記述がある。

社会保障の全体像の把握について

他方で、社会保障給付費のみならず、我が国における社会保障に要する費用全体を把握することは必要であり、整理後の社会保障給付費統計に含まれないこととなる(1)事業の実施が義務づけられていない事業、(2)「個人に帰属する給付」以外の「給付」に類似する事業、(3)施設整備費等を含めた費用を把握することとしてはどうか。

だが、その後、社会保障の全体像の把握は十分に進捗していないのが現状である。また、社会保障給付費には、社会保障分野で地方が単独支出する項目も含まれることから、国だけでは限界があり、地方の支援も不可欠であることは言うまでもない。

このため、地方自治体(代表者)の協力も得つつ、経済財政諮問会議の下に、社会保障予算を分析する専門組織を設置し、まずはその分析を深めてはどうか。110兆円にも達する社会保障給付費の資源配分について、その改善の方向性に資する多くの発見があるはずである。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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