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若い世代の利益を汲み取る政党はどこか

小黒一正法政大学経済学部教授

今月16日に衆議院が解散された。12月4日公示・16日投票に向けて、現在、民主・自民・公明・維新・みんなの党・太陽の党といった各党は活発な動きを展開中だ。

このような状況の中、現時点でのメディアの報道をみると、選挙の争点は、(1)消費増税を含む社会保障・税一体改革、(2)TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、(3)「脱原発」を含むエネルギー政策、(4)外交・安全保障(例:対中戦略)が中心になる情勢である。

これらはいずれも重要な争点であるが、少子高齢化・人口減少のトップランナーを走る日本において、もう一つ重要な争点が抜けている。それは「世代間格差の改善」である。

明治大学世代間政策研究所編『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)や拙書『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)に掲載の「世代会計」(以下の図表の赤色の某グラフ)によると、60歳以上の世代の純負担はマイナスで約4000万円の得(受益超過)、50歳代は約990万円の得(受益超過)となっている一方、それ以降の世代の純負担はプラスで、将来世代は約8300万円もの損(支払超過)となっている。

図表:世代ごとの生涯を通じた受益と負担(単位:万円)

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推計の前提との関係で単純な比較はできないが、将来世代の8300万円の損は、内閣府(2005)の世代会計(青色の棒グラフは内閣府(2005))の推計(約4600万円の損)よりも悪化している。

このような世代間格差が発生する理由としては、恒常化する財政赤字や、毎年1兆円以上のスピードで膨張する社会保障関係費(年金・医療・介護)が関係しているが、公的年金制度をはじめ、人口増を前提に構築されたシステムが今、完全に機能不全に陥り始めていることに大きな原因がある。

その結果、最近メディアでは、世代間闘争を煽るような論調も目立つようになってきているが、残念ながら、世代間闘争を煽ってみたところで、現在の日本が抱える問題は本質的に解決しない。

むしろ問題の本質を見極めた上で、人口増を前提に構築された今のシステムを、世代間の公平性にも配慮しつつ、人口減でも「持続可能」なシステムに改める視点こそが重要であり、そのための枠組み構築がいま求められている。

その際、重要となるのは、事前積立方式への移行といった年金改革や労働市場改革、また、世代間格差を改善するための政治システムの枠組み(例:18歳選挙権、さらなる一票の格差の是正、世代別選挙区の検討)であることはいうまでもない。

今回の選挙は短い期間であるが、このようなテーマを含め、積極的な政策論争が各党で繰り広げられることを期待するとともに、世代間格差の改善を重要と考える有権者にとっては、若い世代の利益を汲み取る政党はどこか、十分に精査のうえで投票することが望まれる。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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