メディアが続々とNFT(非代替性トークン)でニュースを売り始めている――だが、その背後にはある教訓がある。

NFTを使って、メディアがニュースを販売する試みが相次いでいる。その先頭ランナーの一つ、AP通信は1月10日、報道写真の取引市場(マーケットプレイス)開設を表明した。

ブロックチェーン上の識別情報であるNFTは、デジタルアートなどの販売で知られ、空前のブームとなりつつある。

その中でAP通信を始め、CNN、タイム、ニューヨーク・タイムズなど大手メディアも次々に、NFTによるニュースやコンテンツの販売に乗り出している。

メディアがNFTブームの先に見すえるのは、新たな収益源確保に加えて、グーグル、メタ(フェイスブック)などのプラットフォーム支配からの脱却だ。

だが数年前の新規暗号資産(仮想通貨)公開(ICO)ブームでは、脱グーグル・フェイスブックを掲げ、AP通信とも提携していた「ブロックチェーン・ジャーナリズム」のプロジェクトが、音を立てて崩れ去った経緯もある。

暗号資産の「ゴールドラッシュ」「バブル」のサイクルの中で、メディアはプラットフォームの支配から抜け出すことができるのか。

NFTをめぐる喧騒からは、その手がかりはまだ見えてこない。

●報道写真の取引市場

AP通信は「ズーア」のブロックチェーン・テクノロジーによって構築される非代替性トークン(NFT)の取引市場を立ち上げる。コレクターはこの取引市場で、AP通信の受賞歴を誇る現在の、そして歴史的な写真ジャーナリズムを購入することができる。

AP通信は1月10日のリリースで、米デンバーのブロックチェーンベンチャー「ズーア」と提携し、自社の報道写真をNFTで販売する取引市場を月末に開設する、と発表した。

NFTは主にデジタルコンテンツの「オリジナル(原本)」の所有を証明する、売買可能な情報として注目を集める。

2021年2月には、アーティストのリストファー・トーレス氏によるミーム動画「ニャンキャット」のNFTが、暗号資産の300イーサリアム(当時約58万ドル、約6,100万円)で売却され、話題となった。また翌月には、アーティストのビープル氏(マイク・ウィンケルマン氏)の作品「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」が6,935万ドル(約75億円)で売却されており、これが最高額とされる。

ただNFTの販売では、絵画や版画の場合と同じように、売買によってコンテンツの著作権までは移転しない。

APがNFTで販売するという報道写真には、ヨルダン川西岸地区でのイスラエル治安部隊とユダヤ人入植者の女性との対峙を捉えた2007年のピュリツァー賞受賞作も含まれるという。

APの報道写真のNFTには、撮影時間、日付、場所、機材、設定などの情報がメタデータとして含まれる。また、版画と同じようにエディション(シリアルナンバー)付きで、一つの作品について複数のNFTが販売され、2次取引も扱う、としている。

「これらのトークン化された作品を、急成長する世界中の写真NFTのコレクターに提供できることを誇りに思います」とAP通信のブロックチェーン・データライセンス・ディレクター、ドウェイン・デソルニアーズ氏はコメントしている。

●相次ぐメディアのNFT販売

AP通信はメディアの先陣を切って、すでに2021年3月にデジタルアートのNFTを18万ドル(約1,900万円)で販売している

APは2020年米大統領選の結果を、初めて暗号資産「イーサリアム」のブロックチェーン上で公表した。NFTで販売したのは、これを記念したデジタルアート作品だった。

コンテンツのNFT販売に乗り出すメディアは、AP通信だけではない。

CNNは2021年6月、ニュースコンテンツのNFT販売ページ「ボールト」を開設している。サイトでは、テキスト記事、ニュース動画、アニメーションなど44件のコンテンツのNFTを販売している。

タイムも同年3月、1966年の「Is God Dead?(神は死んだか?)」など3つの表紙をNFTで販売。さらに、9月には40人以上のアーティストの4,676件のオリジナル作品のNFTの販売サイト「タイムピーシズ」を開設した

このほかにも、ニューヨーク・タイムズのケビン・ルース氏が同年3月に自身のコラムNFTで販売。56万ドル(約6,000万円)で売却されている(販売代金は慈善団体に寄付したという)。

また、クオーツのNFTについての記事のNFTも同月、売却された

●喧噪がメディアにもたらすもの

NFTの喧騒の背景には、特に2021年のビットコイン、イーサリアムなどの暗号資産の急騰がある。ビットコインの対ドル価格は3万ドルを下回った年初から、11月には過去最高の6万8,000ドル超えとなっている(2022年の年初からは一時4万ドル割れ)。

ただ、メディアが目指すのは、新たな収益源の確保だけではない。

メディアがブロックチェーンのインフラ上で模索してきたのは、グーグル、メタ(フェイスブック)など、コンテンツ流通と収益を握る支配的プラットフォームからの脱却だった。

デジタル広告市場の50%超をグーグル、メタの2社が握り、コンテンツの配信・閲覧・拡散もそのアルゴリズムが差配する。

ブロックチェーンの分散型ネットワークを活用することで、コンテンツ配信と収益確保のグリップを握る。そんなブロックチェーン・ジャーナリズムの試みは、すでに数年前から続いている。

●ブロックチェーン・ジャーナリズムとICOブーム

プラットフォームからの独立と、コンテンツの追跡可能な真正性の保証を掲げて、スポーツ専門チャンネル「ESPN」出身のマシュー・アイルズ氏が2016年に設立したのが、メディアベンチャーシビル」だった。翌2017年、ブロックチェーンベンチャーの「コンセンシス」から500万ドルの資金を調達した。

アドバイザーには、NBCやニューヨーク・タイムズの上席副社長、公共ラジオ「NPR」の社長を務めたビビアン・シラー氏や、ニューズ・コーポレーションの上席副社長を務めたラジュ・ナリセッティ氏ら、メディア業界の著名人らが名を連ねた。

独自の暗号資産「CVL」トークンの市場公開(新規暗号資産公開<ICO>)による資金調達を目指した。

厳しいリストラで知られたローカル紙「デンバー・ポスト」の元記者らによる新メディア「コロラド・サン」など、「地域」「国際」「調査報道」などの分野で14のメディアが参加。ミズーリ大学、南カリフォルニア大学、アリゾナ州立大学の各ジャーナリズム大学院なども提携していた。

「シビル」のプロジェクトを巡っては、今回、報道写真のNFT取引市場を発表したAP通信も、提携を発表していた。

APとの提携では、「シビル」の参加メディアに対するコンテンツ配信、さらにコンテンツ拡散の追跡と著作権侵害の把握などが含まれていた。

ブロックチェーンは、生鮮品のトレーサビリティ(履歴管理)に使われるなど、流通経路を把握できる機能があり、音楽著作権管理でも活用の動きがある。これをニュースコンテンツ管理に生かし、無断転用への対抗措置とする試みだった。

「シビル」が始動した2017年は、暗号資産で資金調達をするICOが、ブームとして巻き起こった時期でもあった。

この時期、約800のICOで約200億ドルが調達されたという。

暗号資産「ライトコイン」の開発者、チャーリー・リー氏のように、この2017年のICOブームと2021年のNFTブームの類似点を指摘する専門家たちもいる。

●ICOの不発、そして閉鎖

2018年9月に市場公開された「CVL」トークンは、最低目標額の800万ドルのごく一部しか調達することはできず、翌10月には全額返金となる。

さらに2019年に改めて「CVL」トークンを売り出すが、やはり不調に終わったようだ。

「シビル」はAPのほかにも、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルを発行するダウ・ジョーンズなどの大手メディアに次々と提携を持ちかけたが、いずれも実現しなかったという。

「シビル」迷走の原因の一つとされたのが、「CVL」トークン購入の手続きなど、その仕組みの複雑さだ。

メディアサイト「ニーマン・ラボ」のジョン・キーフ氏は、2018年のICOの時には44ステップ必要だった手続きが、2019年の再売出しでは33ステップに“簡略化”された、と皮肉った。

関連団体である「シビル財団」の理事長を務め、現在はアスペン研究所のメディア・テクノロジー・プログラムの責任者であるビビアン・シラー氏も、メディアサイト「ポインター」のインタビューに、「複雑すぎて説明困難なものだった」と述べている。

「シビル」の提携メディアは100を数えたが、結局は資金に行き詰まり、2020年6月に閉鎖となる。

●ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーンとメディアの組み合わせには、なお様々な可能性取り組みが挙げられる。

ニューヨーク・タイムズは2019年、AIによるフェイク動画「ディープフェイクス」やフェイク画像への対抗策として、ブロックチェーンを活用し、改竄などを検知する取り組み「ニュース・プロベナンス・プロジェクト」を立ち上げている。

※参照:ディープフェイクスにブロックチェーンで対抗する、NYタイムズの狙いとは?(07/25/2019 新聞紙学的

このような、コンテンツの真正性の担保とトレーサビリティは、コンテンツの取引市場でも重要な役割を果たす。

強権国家における「表現の自由」確保の手段としても、ブロックチェーンには期待がかかる。

「シビル」の失敗が示した課題を、NFTがクリアできるのか、再び咲いたあだ花となるのか。

メディアの持続性の道筋が見えるには、なお時間がかかりそうだ。

(※2022年1月13日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)