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Facebook「コメント欄」炎上の責任はメディアが取れ、と裁判所がいう

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
U.S. Fish and Wildlife Service (CC BY)

フェイスブックページの「コメント欄」が炎上した責任は、ページ管理者であるメディア企業にある――。

オーストラリアの連邦最高裁判所がそんな判断を示したことが、波紋を広げている。

メディアが自社の配信ニュースの告知のために、フェイスブックページにリンクを投稿して、ユーザーから「いいね」やコメントが寄せられる。

今やごく普通の光景だが、そのコメント欄が炎上し、名誉棄損とされる書き込みがあった場合、誰がどこまで、その責任を負うのか。

オーストラリアの連邦最高裁が下した判断は、その責任はプラットフォームであるフェイスブックではなく、ページ管理者であるメディアにある、というものだった。

フェイスブックのユーザーでもあるメディアが、コメントへの法的責任を問われる。しかも、フェイスブックページの管理者であれば、その矛先はメディア以外にも向く可能性がある。

だがフェイスブックでは、コメント機能を完全にオフにする仕組みは、提供されていない。

このため、CNNはすでに、オーストラリアからのフェイスブックページへのアクセスを停止。フェイスブックページでのコメント受け付けを制限する政治家も出始めている。

●CNNがアクセス制限をする

フェイスブックは同社のプラットフォームを、信頼できるジャーナリズムと、最新のニュースについてユーザー同士が生産的な対話をするための、ふさわしい場所にすることができなかった。

CNNは9月29日、そんな声明とともに、オーストラリアのフェイスブックでのコンテンツ公開を停止することを表明した。

CNNはこの声明に先立って、フェイスブックに対し、「CNNなどのメディアに、オーストラリアにおけるコメント機能の停止を提供するか」と問い合わせたところ、回答は「ノー」だったため、今回の判断に至ったという。

ロイター通信の同じ日の報道によると、オーストラリア国内からCNNのフェイスブックページにアクセスすると、「このコンテンツは利用できません」と表示され、すでに閲覧ができなくなっている、という。

CNNによれば、自社のウェブサイトについては、オーストラリア国内でもこれまで通りに閲覧はできる、としている。

フェイスブックでの制限に乗り出しているのは、CNNだけではない。

英ガーディアンのオーストラリア版も、フェイスブックでのコンテンツ公開は続けているものの、多くの投稿でコメント受け付けを停止している。

タスマニア州首相、ピーター・ガトワン氏も9月24日、自身のフェイスブックページで、「ソーシャルメディアが24時間年中無休のメディアだとわかってはいるが、我々のコンテンツ管理能力はそうではない」として、コメント受け付けを制限する、と表明した

ガトワン氏は、この投稿の中で、コメント制限の理由をこう述べている。

フェイスブックにおける名誉棄損訴訟で、連邦最高裁がこのほど、ページの管理者は、投稿へのユーザーのコメントに対して法的責任を負う、と決定した。

●大手メディアにコメントへの責任

各上告人は、公開フェイスブックページを開設、同ページにコンテンツを投稿し、フェイスブックの第三者ユーザーからのコメント書き込みを促し、奨励することで、その配信を支援した。従って各上告人は、第三者コメントの発行人である。

オーストラリア連邦最高裁は9月8日、上告棄却の声明文の中で、そう述べている。

上告していたのは、オーストラリアンとスカイ・ニュース・オーストラリアなどを擁するニューズ・コーポレーション・オーストラリア、シドニー・モーニング・ヘラルドを発行するナイン・エンターテインメント傘下のフェアファックス・メディアといったオーストラリア最大手のメディアグループだ。

発端は、オーストラリア放送協会(ABC)が報道番組「フォーコーナーズ」で2016年、「オーストラリアの恥」とのタイトルを放送し、この中で、ノーザンテリトリー準州の青少年拘置所における収容者への虐待の実態を明らかにしたことだ。

番組冒頭に、上半身裸で拘束椅子に縛り付けられ、頭部も拘束フードで覆われた収容者の映像が流れる。

虐待の実態を象徴するこの収容者が、そもそもの裁判を起こした原告の男性だ。

被告となった各メディアは、施設収容当時の男性についての記事をそれぞれのフェイスブックページに投稿していた。

これらの記事をめぐってコメント欄が炎上し、相次ぐ個人攻撃などで名誉棄損をされた、として原告の男性は2017年、各メディア企業を相手取ってニューサウスウェールズ州最高裁判所に提訴する。

裁判では、名誉棄損の審理を保留し、フェイスブック上のユーザーのコメントに対して、ページ管理者であるメディア企業に責任があるかについての審理が行われた。

ニューサウスウェールズ州最高裁判所は2019年、「各被告は単なるコメントの導管ではなく、商業的目的によって、コメント公表のためのフォーラムを提供し、コメントを奨励した」などとして、メディアの責任を認定。

ニューサウスウェールズ州最高裁判所の控訴審も2020年にこの判断を支持した。

ニューズ・コーポレーション・オーストラリア、ナイン・エンターテインメントなどのメディア企業側は、控訴審の判断を受けて、以下のような共同声明を出している。

この判断は、フェイスブックがメディア企業にフェイスブックページでコメント機能をオフにする機能を提供していないことを含め、プラットフォームをコントロールしているのはフェイスブックであるということを理解できていない。

声明はその上で、こう指摘する。

この判断によって、メディアが自ら公開したわけではなく、コントロールもできないコメントによって訴えられる懸念抜きには、フェイスブックに記事を投稿することもできないことになる。

それだけでなく、政治家であろうと企業や裁判所であろうと、すべての公開フェイスブックページが第三者のコメントに責任を負うという、異常な状況を招いている。

今後、フェイスブックページでのコメントが名誉棄損に当たるかどうかの審理が、改めてニューサウスウェールズ州最高裁で行われる。

ただ、被告であるメディア企業の指摘は、連邦最高裁の判断によってさらに現実味を増した。

CNNやガーディアン、さらにタスマニア州首相の対応は、その衝撃度を物語る。

●コメント機能がオフにできない

被告のメディア企業が指摘するように、フェイスブックページには、ページ全体でコメント機能をオフにする仕組みがない。

CNNが、オーストラリアでフェイスブックページへのアクセスを制限した理由として挙げたのが、この点だった。

フェイスブックページでは、あらかじめ言葉やフレーズを指定して、それらを含むコメントを非表示にする仕組みは以前からある(ただ、そのコメントも投稿者とその友達には表示される)。また、個別のコメントを削除することも可能だ。

だが、コメント機能そのものを、ページ全体であらかじめにオフにすることはできない。

そのためメディア企業は、人手をかけて不適切なコメントを個別にチェックするか、名誉棄損に当たるコメントを呼び込む可能性のある記事はフェイスブックページに投稿しない、などの対応を迫られていた。

同じ時期、オーストラリアではグーグル、フェイスブックに対して、メディア企業へのニュース使用料支払いを求める「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」の検討が行われていた。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的

※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的

当初、メディア企業はこの法案で、フェイスブックのコメント欄の仕様変更を求めており、草案段階では盛り込まれていたものの、最終的には削除されたという。

ただ、そんな経緯を背景に、フェイスブックは2021年3月、フェイスブックページに、コメント受け付け範囲を設定できる機能を追加する。

「あなたの投稿にコメントできる人」を「公開」「フォロー中のページ」「あなたがメンションしたプロフィールとページ」の3つから選択することができる、という仕組みだ。

「あなたがメンションしたプロフィールとページ」を選び、投稿の中でユーザーやページのメンション(指定)をしなければ、コメント機能をオフにすることができる。

ただし、これは投稿を行った後に設定ができる仕組みだ。そして、投稿ごとに設定しなければならず、あらかじめページ全体で設定することはできない。

CNNがフェイスブックに対し、「CNNなどのメディアに、オーストラリアにおけるコメント機能の停止を提供するか」と問い合わせたのは、このページ全体でのコメント機能の停止のことを指す。

そして、フェイスブックはこの問い合わせに対して、3月に追加した機能を紹介するだけだった、という。

一方でフェイスブックページには、個別の国々を指定して、非表示にする機能がある。CNNは次善の策として、この機能を使ったようだ。

●コメント管理の責任の行方

メディアの記事へのコメントの管理責任が問題となったケースはこれ以前にもある。

欧州人権裁判所(ECHR)は2015年、エストニアの大手ニュースポータルサイトの記事に、ユーザーが違法なヘイトスピーチのコメントを書き込んだことに対して、ニュースポータルの管理責任を問うことを認めている。

ただし同裁判所は2016年、ハンガリーのニュースポータルなどの記事に、ユーザーが侮辱的で下品なコメントを書き込んだことに対しては、コメントは違法とまではいえないとして、ニュースポータルなどの管理責任を否定している。

ECHRはその中で、「ニュースポータルは、コメントに関して、伝統的な意味での発行人とはいえないが、原則として義務と責任は負う」と指摘。コメントの内容が違法か、有害だが違法とまではいえないか、でニュースポータルの責任に線引きをしているようだ。

ソーシャルメディア上のコンテンツの管理と責任は、米国でも焦点となっている。

米国では、フェイスブックなどのプラットフォームに、コンテンツへの強い免責を与えている通信品位法230条が、2020年の米大統領選を通じて、大きな注目を集めた。

※参照:Facebook,Google,Twitterを訴えるトランプ氏の思惑(07/09/2021 新聞紙学的

※参照:SNS対権力:プラットフォームの「免責」がなぜ問題となるのか(05/30/2020 新聞紙学的

そして、コンテンツ管理が不十分とする民主党と、コンテンツ管理が過剰だとする共和党とで、目指す方向は全く逆ではありながら、改正に向けた論議は続いている。

オーストラリアでの判断は、プラットフォームの責任論を飛び越えて、そのユーザーでもあるフェイスブックページの管理者にコンテンツ管理責任を認めているという点などを含めて、極端な印象を与える。

さらに、原告の男性は、メディアに対して名誉棄損だとするコメントの削除などの要求を行わないまま、裁判を起こしている。

日本のプロバイダ責任制限法では、プロバイダ(管理者)にコンテンツに対する常時監視義務はなく、名誉棄損などのコンテンツが掲載(投稿)されていることを知らなければ、賠償責任は負わない。

一方で、ソーシャルメディアや大手メディアのコメント欄をめぐっては、記事や投稿そのものに比べて管理の甘さが指摘されている。

※参照:メディアの「コメント欄」が情報工作の標的になる(09/27/2021 新聞紙学的

※参照:反ワクチンが「コメント欄」に氾濫し、接種呼びかけを覆っていく(09/21/2021 新聞紙学的

ユーザーとの接点であるコメント欄は、メディア空間そのものが急速に拡大する中で、大きな「落とし穴」にもなり始めている。

(※2021年10月1日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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