メディアへのリーク封じ 「ロシア疑惑」ピュリツァー賞記者の通話記録を押収

By anika (Public domain)

米トランプ前政権がメディアへの情報漏洩(リーク)封じで、「ロシア疑惑」報道を主導したピュリツァー賞ジャーナリストたちの電話記録を密かに押収していた――。

米ワシントン・ポストは7日、米トランプ前政権下の司法省が、米大統領選へのロシア政府の介入疑惑「ロシア疑惑」に関する調査報道を担当した同社のジャーナリスト3人の電話記録を密かに押収していた、と報じた。

ジャーナリストたちへの司法省の通告書で、明らかになった。3人は一連の「ロシア疑惑」報道でピュリツア―賞を受賞している。

押収された通話記録はトランプ政権1年目、2017年4~7月のもの。3人のジャーナリストはこの時期、2016年大統領選でトランプ陣営の外交政策顧問を務めたジョセフ・セッションズ氏が、ロシア駐米大使と選挙や政策をめぐって協議をしていた疑惑について、米情報機関の機密情報をもとに報じた。

この報道当時、セッションズ氏はトランプ政権の初代司法長官を務めていた。

米国ではオバマ政権以降、政府の機密情報の漏洩(リーク)報道に対する対策が厳格化。ジャーナリストの通話記録やメール送信の記録などを極秘に収集する事例が、相次いで明らかになっている。

特にトランプ政権下では、「ロシア疑惑」の相次ぐメディア報道の中で締め付けが強まった。電話記録押収の引き金になったとみられるワシントン・ポストの報道の翌月、司法長官だったセッションズ氏が「情報漏洩が安全保障を脅かす」と締め付けを表明していた。

情報漏洩をめぐる政権とメディアの緊張関係の一端が、今回の押収発覚で改めて浮かび上がった。

●通話記録押収の通告書

司法省は法手続きに基づき、以下の電話番号の2017年4月15日から2017年7月31日までの利用記録を受領したことを、本送達によりここに通告する。

ワシントン・ポストの7日の報道によれば、同紙のジャーナリストたちに、2021年5月3日付でこのような司法省の通告書が送付されてきたという。

通告書には、それぞれの職場、自宅、携帯の電話番号、計5件が記されていた。押収の目的は明らかにされていないという。また司法省は、業務用の電子メールについても、コンテンツを含まない通信記録の押収令状を取得したが、記録の押収は行わなかったとしていた。

同紙が報じる司法省の説明では、押収の判断は2020年に行われた、という。メディア関係者への押収令状の執行は、司法長官の決裁が必要とされる。同年の司法長官は、年末に退任するまでの大半をウィリアム・バー氏が務めていた。

通話記録が押収されたのは、同紙の安全保障担当のエレン・ナカシマ氏と、グレッグ・ミラー氏、現在はニューヨーカーに在籍しているアダム・エントウス氏の3人だ。

3人は、2016年米大統領選にロシア政府が介入したとされる「ロシア疑惑」の調査報道をリードし、2018年のピュリツァー賞をニューヨーク・タイムズと共同受賞している。ナカシマ氏とミラー氏は2014年にも「スノーデン事件」の取材チームとしてピュリツァー賞を受けている。

まれなことではあるが、司法省が機密情報の不正開示に対する犯罪捜査の一環として、メディア関係者の電話利用記録とコンテンツを含まないメールの記録を入手する法的手続きを進める場合は、省内のメディア・ガイドライン・ポリシーに定められた手順に従うことになる。

司法省の報道官、マーク・レイモンディ氏はワシントン・ポストの取材にそう説明し、さらにこう述べている。

これらの捜査の対象は、ニュースメディアの情報受領者ではなく、国防情報へのアクセス権があり、それをメディアに提供し、法が定めた守秘義務に違反した人物だ。

これに対して、ワシントン・ポストの編集主幹代理、キャメロン・バー氏は、司法省による同社のジャーナリストの通話記録押収について、こんな声明を出している。

ジャーナリストの通信記録を入手するために、政府が権力を行使することに対し、我々は深刻な懸念を持っている。表現の自由のもとで保障された、記者の職務上の行為への侵犯について、司法省にすみやかな釈明を要求する。

●問題となった記事

通告書が押収対象とした時期に何があったのか。

ワシントン・ポストは、通話記録の押収対象期間に当たる2017年7月21日、2016年大統領選期間中に、トランプ陣営の外交顧問だったセッションズ氏と、当時のロシア駐米大使、セルゲイ・キスリャク氏が接触した際、選挙にまつわる具体的な協議を行っていた疑いがあると報じている。

セッションズ氏はそれまで、キスリャク氏との接触は認めていたが、選挙の話題はなかったと主張していた。

だが報道では、対ロ関係についてのトランプ氏の見解やトランプ政権になった場合の米ロの展望について、実質的な協議が行われた、と指摘。キスリャク氏からロシア本国への報告を、米情報機関が傍受したことから、これらの内容が明らかになった、としている。

つまり、米情報機関が保有するロシア駐米大使の傍受情報が漏れていた、ということだ。

トランプ氏は情報漏洩による相次ぐ暴露報道に苛立ち、大統領就任間もない2017年2月、FBI長官だったジェームズ・コミー氏に対し、機密情報を報じたジャーナリストは「投獄せよ」と話していたことが、コミー氏自身によって明らかにされている。

トランプ政権発足とともに初代司法長官に就任していたセッションズ氏は、ワシントン・ポストの報道が出た翌月の2017年8月4日に会見を開き、「司法省は国民の信頼を乱用する者たちには、法的に、然るべき刑事訴追をすることも辞さない」と宣言している。

さらにセッションズ氏はこの会見で、情報漏洩に関する捜査件数は、すでにオバマ前政権から引き継いだ数の3倍に増加しているとし、「膨大な数の情報漏洩によって国を守るべき政府の機能が阻害されていることを断固として非難する」と述べていた。

※参照:トランプ政権が暴露報道の「摘発」宣言。影落とすオバマ政権の先例(08/05/2017 新聞紙学的

●オバマ政権からの引き締め

メディアへの情報漏洩に対する米政権の締め付け強化は、トランプ政権に先立つオバマ政権から始まっている。

オバマ政権の8年間に摘発された情報源は9人に及び、「歴代最悪」と言われる先例を残している。

明らかになった主なものとして、オバマ政権1期目の2011年に国務省職員が情報漏洩で訴追された事件にからむ、FOXニュースのワシントン支局長、ジェームズ・ローゼン氏の事例がある。

問題とされたのは、ローゼン氏の2009年の記事。国連安保理による制裁決議を受けた北朝鮮が、新たな核実験を計画している、との内容で、米情報筋の見解として伝えていた。

この事件では、ローゼン氏の通話記録、個人用のGメールのアカウントなどが押収対象になっているほか、ローゼン氏の国務省の入退出記録などが裁判で示されている。また、同氏をスパイ容疑の「共謀者」と認定していた。

※参照:電話、入退出記録、電子メール・・・「スパイ共謀者」としてのジャーナリスト(05/26/2013 新聞紙学的

またオバマ政権2期目の2013年5月、AP通信のニューヨーク、ワシントンなどの100人以上のスタッフが働くオフィスの20を超す電話回線の2カ月間の発信記録が押収された事例がある。

押収の理由は明らかにされていないが、AP通信は、アルカイダによる米国行き航空機の爆破テロ計画をイエメンのCIAが未然に阻止した、との2012年5月7日の記事が関係しているのではないか、と指摘していた。

※参照:ネット傍受の強化が、セキュリティを危険にさらす(05/19/2013 新聞紙学的

またトランプ政権の事例では、2018年6月、ニューヨーク・タイムズのアリ・ワトキンス氏が、前任のバズフィード時代の2017年4月に掲載した「ロシア疑惑」の記事をめぐって、年単位で通話記録とメールの送信記録を押収していたことが明らかになった。

記事では、2016年大統領選のトランプ陣営の外交顧問でロシア通として知られた、カーター・ペイジ氏が、その3年前の2013年にロシアの情報機関の関係者と接触していた、と報じていた。

ペイジ氏はその後、大統領選の期間中にロシアを訪れ、副首相のアルカジー・ドゥボルコビッチ氏らと面会していたことを認めている。

この件では、情報源とされる元上院スタッフが逮捕されている。

●情報漏洩とメディアと政府

情報漏洩の問題は、特に政権とメディアの緊張関係が高まる中で、大きな焦点となる。

自らに批判的なメディアを「フェイクニュース」と攻撃してきたトランプ政権では、その焦点の一つが「ロシア疑惑」だった。

今回の通話記録の押収は、その問題追及の急先鋒としてピュリツァー賞を受賞した取材チームが標的とされた。

報道が出てから4年、トランプ政権時代の2020年に決裁した押収が、なぜ今になって通告されたのか、よくわからない点もある。

ただ、情報漏洩への締め付けを強めたオバマ政権時代、副大統領を務めていたのが、現大統領のバイデン氏だ。トランプ政権から交代しても、情報漏洩封じの姿勢が軟化することはなさそうだ。