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Facebook、Twitterがメディアの「暴露ニュース」を制限する

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブック、ツイッターは14日、そろってタブロイドメディアによる「暴露ニュース」へのアクセス制限を行うという、異例の措置に乗り出した。

「暴露ニュース」の内容は、これまでトランプ米大統領が繰り返し主張し、否定されてきた民主党の大統領候補、バイデン前副大統領の次男に関わる「疑惑」。その主張に関連し、トランプ氏は議会の弾劾裁判にもかけられている。それが「流出したメール」によって、再び持ち上がった、とするものだった。

すでに上院共和党が主導した調査でも、新たな証拠がない、とされた「疑惑」について、新たに「流出メール」が存在する、としたタブロイドメディア。

その広がりを、フェイクニュース氾濫の舞台として批判を浴びてきたソーシャルメディア2社が押しとどめた形だ。

「暴露ニュース」の情報ソースとされたのはトランプ大統領の顧問弁護士の元ニューヨーク市長、ルドルフ・ジュリアーニ氏。同氏は、バイデン氏の「疑惑」を広めてきた「ロシアのエージェント」とのつながりが指摘されている

ソーシャルメディアによる今回の措置に、トランプ氏は早速ツイッターで批判の声を上げる。

フェイスブックとツイッターのCEOらは、月末には上院商務委員会の公聴会で、プラットフォーム上のコンテンツ管理に関する証言をする予定。これに加え、今回の措置について、上院司法委員会への喚問も取り沙汰される。

メディアとプラットフォーム、フェイクニュースと選挙介入、そしてコンテンツ管理の責任――。

多くの課題を凝縮した今回の騒動は、大統領選本番を3週間後に控え、緊迫の度を増している。

●FacebookとTwitterが抑制する

ニューヨーク・ポストにはあえてリンクをしませんが、この記事はフェイスブックが提携するサードパーティーによるファクトチェックが必要であることを明確にしておきたいと思います。その間、当社のプラットフォーム上での流通は制限します。

フェイスブックの政策広報マネージャー、アンディ・ストーン氏は14日午前8時すぎ(西海岸時間)に、ツイッターへの投稿でそう表明した

疑義のあるコンテンツについては、提携するファクトチェック機関が検証に当たる間、ユーザーのニュースフィードへの表示を制限する。

ニューヨーク・ポストが10月14日朝に配信したバイデン氏に関する「暴露ニュース」の取り扱いについて、ストーン氏は、そう説明する。

さらに、これは同社が2019年10月に発表した2020年米大統領選に向けた取り組みの一環であり、「通常のプロセス」だとも述べている。

ツイッターも14日午後5時前(同)、ニューヨーク・ポストの記事が「メールアドレス、電話番号といった個人のプライバシー情報を含んでいる」とし、プライバシー保護の規約違反があったと指摘した。

さらにこれに加えて、ハッキングされたコンテンツの流通を禁じた規約への違反もあった、としている

ツイッターは、ニューヨーク・ポストの「暴露ニュース」およびその記事へのリンクを含んだニューヨーク・ポストの公式アカウントによる14日朝の2件のツイートを、「このツイートはTwitterルールに違反しています」とのメッセージとともに非表示とした。

●タブロイドメディアの「暴露ニュース」

「暴露ニュース」を報じたのは、タブロイドメディアのニューヨーク・ポストだ。

14日付の紙面とウェブ(14日午前5時・東海岸時間、西海岸時間午前2時)で、バイデン氏の次男で弁護士のハンター・バイデン氏が役員を務めたウクライナのガス会社と、副大統領当時のバイデン氏とを結びつける「流出メール」が明らかになった、とした。

記事が取り上げた2015年4月のガス会社顧問からハンター氏宛てとされる「流出メール」には、この顧問とバイデン氏とのワシントンでの面会を、ハンター氏が仲介したことへの感謝が記されている。

この記事は、バイデン氏の地元、デラウェア州の修理店に持ち込まれ、所有者が引き取りに来ないパソコンのハードディスクに「流出メール」が保存されていたとしている。

記事に掲載されている写真には、修理の依頼主としてハンター氏の名前が記載されている。

さらに記事によれば、修理店の店主の通報により、パソコンは連邦捜査局(FBI)が押収したものの、ハードディスクのコピーは店主から、ジュリアーニ氏側に提供されたとしている。

そして、そのデータがさらに、ジュリアーニ氏からポストに提供された、と記事は述べている。

●ウクライナをめぐる「疑惑」とは何だったか

我々はジョー・バイデンの当時のスケジュールを検証したが、ニューヨーク・ポストが主張するような会合は全く見当たらなかった。

この「暴露ニュース」に対して、バイデン氏陣営の広報担当、アンドリュー・ベイツ氏は声明でこう述べている

ウクライナをめぐるバイデン氏に対する「疑惑」は、トランプ氏やジュリアーニ氏がかねて主張してきたものだ。

バイデン氏が副大統領在任中の2015年、ウクライナの検察腐敗が国際的に問題視される中で、検事総長の解任を要求。翌年、検事総長は解任される。

※参照:「ザッカーバーグがトランプ大統領再選支持」フェイスブックがフェイク広告を削除しない理由(10/16/2019 新聞紙学的

トランプ氏らは、バイデン氏の次男が役員を務めていたウクライナのガス会社を検察が捜査しており、検事総長の解任はそれに対する「圧力」だった、と主張していた。

だがこの問題の矛先は、トランプ氏自身に向く。

トランプ氏がウクライナの大統領に対し、バイデン氏に関するこの「疑惑」を捜査するよう働きかけ、米大統領としての「職権を乱用した」とされ、米国史上3例目となる大統領への弾劾裁判に。しかし、2020年2月に無罪評決を受けた

また、バイデン氏の「疑惑」をめぐっては、上院共和党が主導した調査の報告書が9月23日に公表されている。だが、ここでも「疑惑」を裏付けるような新たな証拠はなかった、とされている

今回のニューヨーク・ポストの「暴露ニュース」は、そんな経緯をたどった「疑惑」のストーリーを、大統領選の3週間前に、改めてメディアの舞台に取り上げた、ということになる。

●「暴露ニュース」への反応

ニューヨーク・ポストの「暴露ニュース」をめぐっては、すでに様々な疑念が報じられている。

マザー・ジョーンズのワシントン支局長、デビッド・コーン氏は、ポストへの情報提供元となったジュリアーニ氏と「ロシアのエージェント」とのつながりを指摘。ロシア発の虚偽情報を拡散する取り組み、と位置付ける。

米財務省は9月10日、10年以上にわたってロシアのエージェントとして活動し、虚偽情報で米大統領選に介入しようとしたとして、ウクライナ議会のアンドレイ・デルカッチ議員に対する国内の資産凍結などの制裁を発表している。

これに先立つ8月7日、米国家防諜安全保障センター(NCSC)のウイリアム・エヴァニーナ長官は大統領選に関する声明で、ロシアはバイデン氏を標的とした攻撃のために様々な手段を用いている、と指摘。デルカッチ氏を名指しし、「汚職の主張を拡散して、バイデン候補と民主党の評判を貶めようとしている」と述べていた。

そのデルカッチ氏が2019年12月、ジュリアーニ氏と接触していたことが明らかになっている

ワシントン・ポストは2020年10月16日、複数の元当局者の話として、米情報機関が2019年の段階で、ジュリアーニ氏がロシアの情報機関の標的になっているとし、国家安全保障担当補佐官のロバート・オブライエン氏を通じて、トランプ氏に警告していた、と報じている。

記事によれば、オブライエン氏の警告に対し、トランプ氏は「肩をすくめた」という。

2016年の米大統領選では、ロシア政府がフェイクニュースなどを使って介入工作を行ったとされる「ロシア疑惑」が問題となった。

その構図が、今回の大統領選でも繰り返され、ポストの「暴露ニュース」がまさにそれだと、マザー・ジョーンズのコーン氏は見立てている。

また、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストなども、ポストが取り上げるメールの信憑性を含め、その記事には疑問点が多い、と指摘する。

ロシアとの関わりでは2020年1月、ハンター氏が役員を務めたウクライナのガス会社に対し、ロシアによるサイバー攻撃が行われたことが、セキュリティ会社の調査で明らかにされている。

サイバー攻撃に関わったのは、ロシアの情報機関、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)と見られている。

2016年の米大統領選でも、民主党全国委員会へのサイバー攻撃が行われ、メールなどの大量の内部文書がネット上に流出した。この時のサイバー攻撃を実行したのが、GRUだったとされている。

※参照:米大統領選、ロシアハッカー、ウィキリークス:米民主党メール流出の裏で何が起きているのか(07/30/2016 新聞紙学的

サイバー攻撃によって入手したメールなどの内部文書を、選挙本番の直前に暴露する。同様の混乱は、これまでにも明らかになっている。

2017年のフランス大統領選では、5月の決戦直前に、マクロン氏陣営へのサイバー攻撃によるメールなどの大量の内部文書が、やはりネット上に流出する騒動があった。

この時のサイバー攻撃も、GRUによるもの、とのセキュリティ会社の見立てが示されている。

※参照:フェイクニュースはなぜフランス大統領選を揺るがさなかったのか(05/12/2017 新聞紙学的

ジョンズ・ホプキンス大学教授で、サイバーセキュリティと選挙干渉に詳しいトーマス・リッド氏は、このような内部文書の暴露には、偽造されたものが混ざっている可能性もある、とその信憑性への疑問を指摘している。

●タブロイドメディアとトランプ氏からの反撃

フェイスブックとツイッターはメディアのプラットフォームではない。プロパガンダ・マシーンだ。

ソーシャルメディアでの拡散を制限されたニューヨーク・ポストは、10月14日午後に配信した社説で、こう批判した

フェイスブックとツイッターが“動かぬ証拠”のメール、ジョー・バイデンと息子のハンターに関するニューヨーク・ポストの記事を排除するとはとんでもない。この記事はほんの序の口だ。腐敗政治家は最悪だ。230条撤廃だ!!!

トランプ氏も14日午後5時すぎ、フェイスブックとツイッターによる抑止措置について、こう攻撃した

トランプ氏がいう「230条」とは、プラットフォーム事業者の投稿コンテンツへの免責を定めた通信品位法230条のことだ。

ツイッターは5月26日、「郵便投票は実質的な詐欺以外の何物でもない」とのトランプ氏のツイートに対し、「郵便投票についてのファクトはこちら」との警告文を表示。「トランプ氏は、郵便投票は不正投票につながるとの根拠のない主張をしている」との見出しをつけた説明ページにリンクさせた。

この措置に対する意趣返しのような形でトランプ氏はその2日後、通信品位法230条の免責の制限を求める「オンライン検閲防止に関する大統領令」に署名し、これがソーシャルメディア企業から「表現の自由を守るためのもの」だと主張した。

※参照:SNS対権力:プラットフォームの「免責」がなぜ問題となるのか(05/30/2020 新聞紙学的

そして、まさにその通信品位法230条をめぐり、上院通商委員会は10月28日に公聴会を予定。その場には、今回の騒動の渦中にあるフェイスブック、ツイッターの両CEOに加えて、グーグルCEOが証言に立つことになっている。

また今回の騒動を受けて、上院共和党のテッド・クルーズ氏は、フェイスブック、ツイッターの両CEOの上院司法委員会への喚問も要求している

●ロシアの介入とソーシャルメディア

前回の大統領選でフェイクニュース氾濫の舞台として批判が集中したフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア。リベラル派からは「放置」、保守派からは「検閲」との十字砲火が続いていた。

だが、今回の騒動の発端はタブロイドメディアだ。

プラットフォームの在り方だけではなく、メディアの在り方そのものが議論の焦点になっている。

(※2020年10月16日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

【Update】2020-10-16 11:45

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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