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「Facebookの運営上のミス」3人死傷の銃撃事件でザッカーバーグ氏が認めた失敗とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

それは運営上のミスだった――。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは8月28日、自身のフェイスブックに投稿した動画で、そう認めた。

問題となっているのは8月25日深夜に、米ウィスコンシン州ケノーシャで起きた抗議デモへの銃撃事件。2人が死亡、1人が負傷し、容疑者として17歳の白人男性が逮捕された。

その2日前に同市で起きた、白人警官による黒人男性への銃撃事件をきっかけに、抗議の輪が全米に広がっていた。

抗議デモへの銃撃事件当日、地元の「自警団」を名乗るフェイスブック・ページが、「武装して街の自警を」と呼びかけていた。

フェイスブックはその前週、「暴力扇動」への対策強化を打ち出したばかり。「武装」の呼びかけに、規定違反を指摘する400件を超す通報があったにもかかわらず、フェイスブックは「違反はしていない」として対応を取らなかった。

ザッカーバーグ氏は、その通報への対応の失敗を公式に認めたのだ。

「銃撃を賛美するコンテンツは積極的に見つけ出す」。ザッカーバーグ氏はそう宣言する。

だが事件後も、フェイスブック上で銃撃容疑者への賛美や募金を呼びかける投稿は相次ぎ、その1つは1万8,000回近くも共有されているという。

フェイスブックが暴力扇動や陰謀論の拡散の舞台になっている――米大統領選の過熱とともに、そのような批判が日増しに高まっている。

フェイスブックは4年前の大統領選で、フェイクニュースの氾濫を放置した、として激しい批判を浴びた。

4年後の今、人種差別と社会の分断がより血生臭い形で影を落とし、問題は深刻さを増している。

●なぜすぐに削除されなかったのか

このページは規定に違反していた。ではなぜすぐに削除されなかったのか、と多くの報道が指摘している。特にこのページについて数多くの通報があったのに、と。その理由の大部分は、運営上のミスだ。

ザッカーバーグ氏は、8月28日に自身のフェイスブックに投稿した7分の動画の中で、そう述べている。

この件は、リアルなリスク、選挙期間を通じて増大し続けるリスクが存在することを示している。今は極めてセンシティブで分極化した、とても困難な時期だ。だが、その最前線でしっかりと問題に取り組んでいく。

動画はその前日、フェイスブック社内で行われた社員集会での、ザッカーバーグ氏の説明の模様だ。

暴力を賛美する規定違反のページが、なぜ放置されたのか――米バズフィードによると、そのような批判の声はフェイスブック社内からも沸き起こっているという。

問題の発端は、8月23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた、29歳の黒人男性、ジェイコブ・ブレーク氏への白人警官の銃撃事件だった。

素手のまま自動車に乗り込もうとするブレーク氏に、警官は後ろから7発発砲。命は助かったものの、弾丸が脊髄を貫通するなどし、下半身まひなどの状態だという。

その2日後、8月25日の深夜、この銃撃事件に対する同市内の抗議デモの参加者に、武装した反対派が自動小銃で銃撃。

近隣在住のアンソニー・フーバー氏26歳と地元のジョセフ・ローゼンバウム氏36歳の白人男性2人が死亡し、1人が右腕を負傷した。

逮捕されたのは、現場から自動車で30分ほどのイリノイ州アンティオック在住の17歳の白人男性だった。

●武装呼びかけと通報

この日、「ケノーシャ自警団」を名乗るフェイスブック・ページが「イベント」のページを立てた。

「我々の生活と財産を守る武装市民へ」とのタイトルで、同日午後6時から翌朝5時まで、市中心部のケノーシャ・センター・パークへの集合を呼びかけていた。

「イベント」の集合時間から1時間近くたった時点で、この呼びかけには550人近い「参加予定」の表明と、4,300人を超す「興味あり」のリアクションがあった。

「ケノーシャ自警団」は同日、別の投稿で、このような投稿もしていた。

今夜、武器を手に取り、邪悪なごろつきから我々の街を守る愛国者はいるか? 間違いなく奴らは今夜、この街の別の場所を焼き討ちをする計画を立てているところだ!

米バズフィードの報道では、フェイスブックの内部文書によると、この呼びかけに対して、ユーザーから「暴力扇動」に当たるとして455件に上る規定違反の通報があった、という。

だがフェイスブックは通報に対し、「コミュニティ規定には違反していない」と回答している。

フェイスブックが「ケノーシャ自警団」のページと「イベント」の削除をしたのは、3人が死傷した銃撃事件の後だった、という。

●暴力対策の翌週に

フェイスブックはその6日前の8月19日に、暴力に対する取り組みの強化を表明したばかりだった。

同社は「暴力に関わる運動や組織への取り組みについてのお知らせ」と題して、陰謀論グループ「Qアノン」の排除に加えて、コミュニティ規定の「暴力行為および犯罪行為」の適用範囲を拡大することなどを発表していた。

※参照:Facebook、Twitterが排除する「危険な」陰謀論はどこまで広がっているのか?(08/21/2020 新聞紙学的

では、大量の通報があったにもかかわらず、なぜそれを放置することになったのか。

冒頭のビデオでザッカーバーグ氏は、今のところ逮捕された17歳と「ケノーシャ自警団」のフェイスブック・ページとの関係や「イベント」への招待などを示す証拠はない、とした上で、こう釈明している

通報が最初に送信されたのは外部委託の担当者だった。この担当者たちは、規定違反とは判断しなかった。2度目の判定では、危険性のある団体を専門に扱うチームがより詳細に検討し、規定違反と判断して、削除した。

つまり、通報に対して当初の対応に当たったのが十分な専門知識がない外部委託業者だったために、適切な判断ができなかった、ということだ。

これが「運営上のミス」とザッカーバーグ氏が説明している内容だ。

●募金の広がりと警察の対応

「しっかりと問題に取り組んでいく」とザッカーバーグ氏は表明した。

しかし、問題はなおも現在進行形で続いているようだ。

ガーディアンによると、逮捕された17歳への募金の呼びかけや賛美の投稿がフェイスブック上で拡散しているのだという。

ある募金の呼びかけは、1万7,700回以上もシェアされた。その中には291のフェイスブック・ページやグループが含まれ、フォロワー数は合わせて390万人に上るという。

ザッカーバーグ氏は、社員集会の動画の中で、黒人のジェイコブ・ブレーク氏と、銃撃事件の白人の17歳に対する警察の対応の違いを取り上げ、「不正、不当と我々が感じていることを象徴する」と述べている

素手の状態だった黒人のジェイコブ・ブレーク氏は、白人警官から7発もの銃撃を受けた。しかもCNNなどによると、ブレーク氏は搬送された病院のベッドに手錠でつながれていた、という。

その一方で、3人死傷の銃撃前、全長80センチほどもある自動小銃を掲げていた17歳の白人男性らに、警官が親しげに話しかけ、ミネラルウォーターを渡す様子を撮影した動画が報じられている

いずれも同じケノーシャ警察の対応であることが、問題の根深さを示している。

そしてその問題の拡散について、フェイスブックのあり方も、問われている。

(※2020年8月30日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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