新型コロナ接触アプリの効果は測定できるか? このアプリはできるらしい

(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス接触アプリが、1日半で人口の2割に普及。そしてアプリでどれぐらいの通知が届いたか、その効果も測定できる――。

7月7日に公開されたアイルランドの接触追跡アプリ「COVIDトラッカー」が、公開から1日半でダウンロード数が100万を超え、人口の2割の普及を達成したという。

人口500万足らずの同国。普及率で見ると、好調な滑り出しだ。

ただ、グーグルとアップルが提供するサービスを土台にしたプライバシー配慮型のアプリではあるが、同様の仕組みを使う日本やドイツ、スイスなどとはだいぶ様子が違う。

日本の「COCOA」は「接触確認アプリ」と呼ぶように、感染者との濃厚接触が判明した場合に、それを通知するだけの単機能のアプリだ。

通知が何人のユーザーに届いたか、その結果としてどのような行動を取ったか、というアプリの効果を測定する機能はない。

だがアイルランドの「COVIDトラッカー」は、「トラッカー(追跡)」と名付けているように、位置情報は使わないが、ユーザーの同意によるオプションで、濃厚接触通知やユーザーの健康状態などを「追跡」できる多機能アプリだという。

アプリの効果が、検証できる仕組みになっているのだ。

アイルランドは、厳格なプライバシー保護で知られるEUの加盟国。だが同国のデータ保護当局はプライバシー保護に関して「問題なし」との姿勢だ。一方でプライバシー保護団体は懸念を表明している。

アイルランドのアプリはオープンソース。英国領の北アイルランドでも運用が予定されており、国境を越えた連携運用も視野に入っているという。また、米ペンシルベニア州とも採用に向けた協議が始まっている。

さらに、オープンソースのコンソーシアム、リナックス財団(米サンフランシスコ)が立ち上げた各国政府の公衆衛生アプリ支援のプロジェクトにも採択された。

扱うデータ、そしてプライバシー保護と普及。そのバランスの中で、アプリの効果が決まってくる。

●36時間で人口の2割

アイルランドの新型コロナ接触追跡アプリ「COVIDトラッカー」が公開されたのは7月7日だ。

運営するのは、アイルランド保健省傘下で公的医療サービスを提供する保健サービス委員会(HSE)。開発の中心は同国のソフト開発会社「ニアフォーム」だ。

人口492万人のアイルランド。デロイトのデータではスマートフォンの普及率は91%。

そんな同国で、「COVIDトラッカー」は公開から24時間で86万5,000件のダウンロードがあり、36時間で100万ダウンロードを超えた、という。

日本の接触確認アプリ「COCOA」は、6月19日の公開から1日のダウンロード数が179万件。公開から5週間が過ぎた7月28日現在で888万件(陽性登録件数63件)と、アイルランドよりはるかに多い。ただ、人口比で見ると普及率は7%だ。

接触アプリとして先行したシンガポールは、人口570万人とアイルランドと同規模。

3月20日に接触追跡アプリ「トレーストゥギャザー」を公開してから4日でダウンロード数60万件。さらに3カ月後の6月末現在で210万件(人口比37%)と振るわない。

そこでシンガポールは、接触検知機能に特化した専用携帯端末「トレーストゥギャザー・トークン」を、スマートフォンの利用率が低い高齢者に配布し始めた

そんな中でアイルランドは、1日半で100万ダウンロード、人口比で20%と好調の滑り出しを見せた。

公開から2週間超でダウンロード数は140万件を超え、人口比で28%、スマートフォンユーザー比で31%となっている。

政府による強制のない接触アプリの中では、「普及の成功例」として注目集めている

●効果が検証できるか

「COVIDトラッカー」が注目を集めるもう一つの理由が、濃厚接触通知を「追跡」し、その効果を検証できる、という点だ。

「COVIDトラッカー」は、グーグルアップルが共同開発し、ブルートゥースを使ったアンドロイド、iPhone対応のシステム「エクスポジャー・ノーティフィケーション(曝露通知)API」を利用している。

このシステムの特徴は、位置情報は使わず、匿名の接触データがすべてスマートフォンの端末内に保存される、という点だ。感染者との濃厚接触の有無は、アプリが感染者データベースに定期的にアクセスした上で、端末内で接触データと照合して判定する。

シンガポールなどのアプリは、政府が中央サーバーで接触データなどを一括して管理する「集中型」と呼ばれる。これに対し、このグーグル・アップル方式は接触データを端末側で持つため、「分散型」と呼ばれており、プライバシー保護レベルが高い、と言われている。

※参照:新型コロナ接触確認アプリ、「普及率6割必要は間違い」なぜ?(06/22/2020 新聞紙学的

※参照:新型コロナ対策「接触追跡アプリ」が迷走する理由(05/15/2020 新聞紙学的

※参照:新型コロナ感染:接触追跡アプリに潜む意外なハードル(04/21/2020 新聞紙学的

※参照:新型コロナ:スマホの位置情報は感染接触者を割り出せない?(04/09/2020 新聞紙学的

※参照:新型コロナ:「感染追跡」デジタル監視の新たな日常(03/25/2020 新聞紙学的

たとえ政府の公衆衛生当局であっても、外部からは、誰と誰が濃厚接触したかというデータは把握できない。そればかりか、感染者との濃厚接触が検知され、ユーザーにその通知が表示されたかどうかも、アプリから把握する手立てはない。

接触アプリによる通知がどれぐらい機能しているかどうか、その通知が何件にのぼるか――そのデータがわからない仕組みだ。

日本の「COCOA」はダウンロード数、陽性登録件数は随時発表されているが、感染者との濃厚接触の通知件数は発表されていない。

BBCによると、これは同じくグーグル・アップル方式の「分散型」で、日本よりも3日早い6月16日にアプリ「コロナ・ワーン・アプリ」を公開したドイツや、日本の6日後、6月25日にアプリ「スイスCOVID」を公開したスイスも、この「通知件数のデータは把握できない仕組み」だという。

だが、同じグーグル・アップル方式の「分散型」でも、アイルランドのアプリは、そのデータが把握できる仕組みを採用しているのだという。

しかもそれだけでなく、ユーザーの電話番号や、日々の健康状態についても、公衆衛生当局が把握できる仕組みになっているようだ。

ポイントは、アプリの基本機能に加えた、オプション機能だ。

●オプションと同意でデータを取得する

アイルランドの「COVIDトラッカー」は、日本やドイツ、スイスと同じく、グーグル・アップル方式をベースとした基本機能だけで使うこともできる。

だがそれに加えて、ユーザーによるデータ共有への同意をもとにした、様々なオプション機能備えている

その一つが、感染者との濃厚接触通知があった場合に、その「通知あり」のデータを、アプリを管理するアイルランド保健サービス委員会と共有する、というオプションだ。

このデータ共有によって、保健サービス委員会はダウンロード数に加えて、濃厚接触通知数を把握することが可能になる。

さらに、通知を受けたユーザーが、その後の対応について相談を受けたい場合に、自分の電話番号を同委員会に送信する、というオプションも盛り込んでいる。

アプリの機能検証、さらにユーザーと保健当局とをつなぐ役割が、オプション機能としてではあるが、実装されているのだ。

また、“アプリ内アプリ”として「COVIDチェックイン症状トラッカー」を用意している。これも、やはりオプションとして同意の上で使うアンケート機能だ。

「居住自治体」「年齢層」「性別」を登録した上で、毎日の健康状態を「健康」「不調」で回答し、「不調」の場合はさらに「発熱」「呼吸の乱れ」「せき」「味覚・嗅覚障害」を具体的に選択するようになっている。

この回答は日々、統計データとして集計され、アプリ内でグラフとして表示されるほか、端末内で28日間保存。感染と判定された場合に、オプションで保健サービス委員会と共有できる仕組みとなっている。

いずれのオプションも、それぞれユーザーが同意を取り消し、データを削除することができる、という。

●プライバシー保護団体の懸念

グーグル・アップル方式を採用した、日本を含む他の接触通知の単機能アプリの場合には、プライバシーに深くかかわるのは、感染が判明したユーザーが本人同意のもとでアプリに入力する「処理番号」および感染者としてサーバーに登録される匿名キーぐらいだ。

だが、「COVIDトラッカー」が用意するこれらの多機能オプションは、健康などのプライバシーにかかわる重要なデータを扱うことになる。

アイルランド保健省と保健サービス委員会は、「COVIDトラッカー」の公開に先立つ6月26日付で、EUのプライバシー保護法制「一般データ保護規則(GDPR)」の枠組みに合致するかどうかを検討する「データ保護影響評価(DPIA)」をまとめ、公表している。

これについて、人権団体である「アイルランド市民自由協会」と「デジタルライツ・アイルランド」は7月2日、懸念の声明を発表した

声明では、「COVIDトラッカー」は、EUの個人データ保護調整機関「欧州データ保護会議(EDPB)」が4月にまとめた新型コロナの接触追跡ツールのガイドラインにおける「接触通知に限定した単一機能」のル―ルを逸脱している、と指摘。

特に、「COVIDチェックイン症状トラッカー」が「居住自治体」や「症状」などの追加データを取得している点を挙げている。

だが、アイルランドのデータ保護機関である「データ保護委員会(IDPC)」は、この点について問題視はしていないようだ。

同委員会の副データ保護コミッショナー、グラハム・ドイル氏は、アイリッシュ・エグザミナーのインタビューに対し、「これは(新型コロナ対策という)大きな問題への取り組みだ。データ保護は、この問題の一部にすぎない」と述べ、人権団体が指摘する居住地などのデータについても、「個々人の位置情報を追跡しているわけではない」としている。

●オープンソースとして

アイルランドは、4月のピーク以降、新型コロナの感染状況は比較的沈静化しており、7月28日の新規感染者数は40人だ。

これらのオプションデータが、どれだけの効果を発揮するのかは、今のところ不明だ。

だが、同じ仕組みのアプリを、アイルランド以外でも採用する動きがある、という。一つは、国境を接する英国領北アイルランドだ。

アプリは間もなく公開され、国境を隔てたアイルランドとの間でも運用を連携し、通知が機能するようになる予定だという。

さらに、感染拡大が続く米国でも、検討の動きがある。

アイリッシュ・タイムズなどによると、1,270万人とアイルランドの倍以上の人口を擁する東部ペンシルベニア州は、「COVIDトラッカー」の開発元であるアイルランドの「ニアフォーム」とすでに協議を始めている、という。

また、オープンソースとしても、支援の動きがある。

オープンソースのコンソーシアム、リナックス財団は7月20日、政府機関による新型コロナ対策を支援する新たな取り組み「リナックス財団公衆衛生(LFPH)」を発表した。

発足当初のプロジェクトとして、グーグル・アップル方式を採用したオープンソースのアプリを選定。

アイルランドの「COVIDトラッカー」の元となった「COVIDグリーン」、さらにカナダが開発中のアプリ「COVIDアラート」の元になっている「COVIDシールド」の2つを採択した。他の政府機関によるアプリ開発などを支援していく、としている。

●アプリへの関心低下とコロナへの関心

接触アプリをめぐる動きに、改めて関心が高まっている。

一方で、日本では「COCOA」のリリース当初こそ接触アプリが注目を集めたが、以後はそれもすっかり落ち着いてしまったようだ。

ただその日本でも、感染拡大を続ける新型コロナへの関心は、右肩上がりを続けている

(※2020年7月28日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)