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スターバックス、ユニリーバ、コカ・コーラが相次ぎ広告ボイコット…Facebookに何が起きている?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

スターバックス、ユニリーバ、コカ・コーラ……フェイスブックに対する広告主のボイコットの動きが止まらない。

人種差別撤廃の機運の高まりの中で、ヘイトなどの有害コンテンツ対策に消極的だとして批判の標的となっているフェイスブック。

そのフェイスブックに対し、大手の有名ブランドが相次いで広告の停止を明らかにしているのだ。

ボイコットのスローガンは「ヘイトで金儲けはやめろ」。

6月26日には、ユニリーバがボイコット参加を表明すると、その数時間後にCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が有害コンテンツ対策を発表。

だがボイコットの勢いは止まらず、同日中にコカ・コーラが「人種差別に居場所はない」との声明とともに、フェイスブックを含む全ソーシャルメディアへの広告取り止めを公表。

さらに28日にはフェイスブックへの広告料ではトップ10に入るスターバックスも、やはり全ソーシャルメディアへの広告取り止めを明らかにしている。

ブルームバーグによると、ユニリーバのボイコット参加を引き金に、フェイスブックの株価は急落。ザッカーバーグ氏の個人資産も、この日だけで72憶ドル(7700億円)も目減りした。

コカ・コーラ、スターバックスの動きに見られるように、ボイコットは「対フェイスブック」から「対ソーシャルメディア」の様相も見せ始めている。

●「人種差別に居場所はない」

当社は、リアルとネットの双方で、コミュニティの団結を信じる。そしてヘイトスピーチに立ち向かう。快適で包摂的なネットのコミュニティづくりには、なおやるべきことがあり、ビジネスリーダーと政策決定者は、ともに根本的な改革に取り組む必要があると考える。

スターバックスは6月28日に発表した声明で、こう述べている

当社はすべてのソーシャルメディア・プラットフォームにおいて、広告掲載を停止する。この間、社内、メディアパートナー、さらに人権団体とともに、ヘイトスピーチ拡散を止める取り組みについて、議論を続けていく。

「すべてのソーシャルメディア」には、フェイスブックも含まれている。

広告分析を手がける「パスマトリクス」の推計によるウォールストリート・ジャーナルのまとめでは、スターバックスはフェイスブックへの広告掲載トップ10の6位。

2019年のフェイスブックへの広告料は9,486万ドル(約101億6,000万円)に上る。

フェイスブックを主な標的とした相次ぐ広告ボイコットのドミノは、日を追うごとに、大手有名ブランドへと広がりを見せている。

大きな動きがあったのが、26日だった。

この日、日用品大手のユニリーバがフェイスブックとツイッターへの広告見合わせの声明を発表している。

(プラットフォーム、コンテンツの責任を呼びかける)当社のリスポンシビリティ・フレームワーク、さらに米国内の分断状況を考慮し、当面は年末まで、米国内におけるフェイスブック、インスタグラムそしてツイッターのニュースフィードへのブランド広告掲載は行わないこととした。現下の状況でこれらのプラットフォームへの広告掲載を続けても、人々と社会に新たな価値をもたらすことにはならない。当社は状況を注視し、必要に応じて、この措置を見直していく。

広告主としてグローバルな影響力を持つユニリーバ。フェイスブックへの広告料は4,240万ドル(約45億円、パスマトリクスの2019年推計)。

ユニリーバのボイコット参加表明の数時間後、フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏は、有害・不適切コンテンツへの対応策をライブストリーミングで公表する。

だが広告ボイコットのドミノは止まらず、コカ・コーラも、ユニリーバと同じ6月26日にそのリストに加わることになる。

世界に人種差別の居場所はないし、ソーシャルメディアにも人種差別の居場所はない。コカ・コーラ・カンパニーは少なくとも30日間、グローバルにすべてのソーシャルメディア・プラットフォームへの広告出稿を停止する。この間に、広告ポリシーの見直しを行い、変更が必要かどうかを判断する。また、ソーシャルメディアのパートナー企業が、さらなる説明責任と透明性を担うことを期待する。

コカ・コーラ・カンパニーの会長兼CEOのジェームズ・クインシー氏は、26日に発表した声明の中でそう述べている。

コカ・コーラのフェイスブックへの広告料も2,210万ドル(約23億7,000万円、パスマトリクスの2019年推計)に上る。

フィナンシャル・タイムズは29日、フェイスブックの対応策発表が「広告ボイコット食い止めに失敗した」と報じている。

同紙によると、26日のザッカーバーグ氏の対応策表明後も、同日中にコカ・コーラのほかに、リーバイ・ストラウス(リーバイス)、チョコレートのハーシー、英酒造メーカーのディアジオが、それぞれ広告ボイコットを明らかにしている。

●フェイスブックの対応策

フェイスブックへの批判の高まりの端緒となったのは、トランプ大統領による、5月29日の投稿の扱いだ。

※参照:SNS対権力:フェイスブックとツイッターの判断はなぜ分かれるのか?(06/04/2020 新聞紙学的

米ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行により死亡。この事件をきっかけに人種差別撤廃の大規模デモと暴動が全米に波及する。

この動きを受けてトランプ氏は5月29日、「ごろつき」という言葉とともに「略奪が始まれば、銃撃が始まる」とツイートしている。

この投稿に対して、ツイッターは「暴力を賛美している」と判断。タイムライン上は非表示とした上で、ユーザーが改めてクリックをすれば閲覧できるという対応をした。

これに対してザッカーバーグ氏は、「フェイスブックは真実の裁定者になるべきではない」との立場を堅持。

ツイッターが非表示対応をしたのと同一文面の、トランプ氏による「略奪が始まれば、銃撃が始まる」の書き込みを、5月29日の投稿以降、そのまま掲載し続けている

この対応について社内外からの批判が集中。有害・不適切コンテンツへの対応を迫られていた。

6月26日にザッカーバーグ氏が発表した対応策は大きく4点。

「大統領選に向けた投票関連情報の提供」「投票妨害行為への対策強化」「広告のヘイトコンテンツに関する規制基準設定」「ニュース価値のある不適切コンテンツへのラベル表示」だ。

このうち、焦点となっているトランプ氏の投稿に直接関わるのは、4点目の「ニュース価値のある不適切コンテンツへのラベル表示」だ。

これまでは、(政治家などによる)ニュース価値があると見なされるコンテンツについては、(ポリシー違反であっても)掲載を続けてきた。これらについて、間もなくラベル表示を開始する。ユーザーはそれによって、該当する投稿を知ることができる。

(中略)

一つはっきりさせておきたい。暴力賛美や投票妨害のコンテンツについては、ニュース価値による例外扱いの対象とはしない。たとえ政治家や政府関係者の投稿であっても、暴力扇動や投票権の侵害につながると判断した場合には、コンテンツを削除する。

対策は、「真実の裁定者にならない」というフェイスブックの従来の立場からは踏み出している。

だが、スターバックスやコカ・コーラといった大手広告主には、十分な対策とは映らなかったようだ。

ネット上のヘイトコンテンツをめぐっては2017年にも、同じような広告ボイコットが起きた。

この時に問題となったのは、ユーチューブ上のヘイト動画だった。ヘイト動画と一緒に英国政府などの広告が掲載されているとして、広告引き上げの動きが拡大。AT&Tやジョンソン・エンド・ジョンソンなどの米国の大手広告主にも飛び火する事態となった。

※参照:グーグルからの広告引き上げ騒動、広がり続けるその背景(03/25/2017 新聞紙学的

ヘイトコンテンツと一緒に広告が掲載されれば、大きなブランド棄損につながる。

広告主は規模の大小を問わず、広告が掲載されるプラットフォームやメディアのコンテンツの信頼度には、敏感にならざるを得ない。

●広告主はフェイスブックにいくら払っているのか

今回の広告ボイコットは6月17日、フェイスブックを対象に「ヘイトで金儲けはやめろ」とのスローガンを掲げて、有力ユダヤ人団体「名誉棄損防止同盟(ADL)」や「全国有色人種向上協会(NAACP)」、「スリーピング・ジャイアンツ」といった人権団体などが呼びかけたものだ。

多くは中小の企業だというが、「スリーピング・ジャイアンツ」が公開しているリストでは、個人なども含めて160を超す名前が挙がっている。

フェイスブックの2019年の収益は総額で707億ドル(約7兆6,000万円)。このうちの697億ドル、99%が広告だ。

スターバックス、ユニリーバ、コカ・コーラ以外の広告主は、フェイスブックにそれぞれいくら払っているのか。

「パスマトリクス」の推計値をウォールストリート・ジャーナルニューヨーク・タイムズなどがそろって報じている。

それによると、すでにボイコットを表明している米通信大手がベライゾンの2,290万ドル(約24億6,000万円)、アウトドア用品のレクリエーショナル・イクイップメント(REI)が2,250万ドル(約24億1,000万円)。

このほかにも、パタゴニア(620万ドル)、ホンダ・アメリカ(600万ドル)、ノース・フェイス(330万ドル)、リーバイ・ストラウス(リーバイス、280万ドル)、エディー・バウアー(140万ドル)などとなっている。

ウォールストリート・ジャーナルは、パスマトリクスのデータをもとに、フェイスブックへの出稿量トップ10をまとめている。その1位は大手ホームセンターのホーム・デポで1億7,850万ドル(約191億7,000万円)。

以下、ウォルマート、マイクロソフト、AT&T、ディズニー、スターバックスと続く。トップ10の中で、6月29日現在でボイコットに参加しているのはスターバックスのみだ。

ただ、7位の日用品大手、プロクター・アンド・ギャンブル(9,230万ドル)は、出稿先の各プラットフォームの有害コンテンツについて見直し作業を進めている、と述べている。

●ソーシャルメディア全体に

人権団体の広告ボイコットのキャンペーンは、フェイスブックに焦点を絞っている。

だが、ユニリーバは広告ボイコットの対象にツイッターも含め、スターバックス、コカ・コーラは、全ソーシャルメディアを対象としている。

有害・不適切コンテンツの問題が、広告主にとっては、フェイスブックに限ったことではなく、「ソーシャルメディア全体の問題」であることを示している。

広告ボイコットは、さらに広がりを見せる可能性もある。

(※2020年6月29日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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