新型コロナ:みんなが知りたいこととメディアのニュースがずれている

(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染拡大の中で、みんなが知りたいことと、メディアが伝えるニュースにずれが出ている――。

テキサス大学オースチン校の研究チームが、3月下旬に行ったネット調査から、そんな結果をまとめた

ほぼ新型コロナウイルス一色のニュース。そして、自宅隔離を余儀なくされている人々にとって、ニュースへのニーズは高い。

だが、配信されるニュースは、読者のニーズに合っているのか。

日々の暮らしに直結するニュースを求める市民と、地域経済の落ち込みから目が離せないメディア――。

調査結果からは、両者の関心のポイントのずれが見て取れる、という。

ニュースへのニーズの急速な高まりの一方で、ローカルメディアは広告収入激減のダメージが直撃。死活をかけた舵取りに直面している。

そんな事情も、ニュースの舞台裏に影を落とす。

●最大関心事は「自治体、州政府の対応」

調査結果をまとめたのは、テキサス大学オースチン校メディア・エンゲージメント・センター副所長のジーナ・M・マスロ氏ら13人の研究チーム。

研究チームは3月23、24の両日、18歳以上の米国人999人を対象に、オンラインアンケートを実施。22項目のニュースの種別を示し、それぞれを「さほど重要ではない(0)」から「非常に重要(3)」までの4段階で評価してもらい、その平均点をまとめた。

すると、22項目のニュース種別は、すべて「非常に重要(3)」から「ある程度重要(2)」までの範囲に集中していた。

このうち、上位10項目は次の通り。

1:地元自治体、州政府の対応(2.80)

2:地元病院の対応(2.77)

3:地元自治体、州政府の規制(2.75)

4:地元スーパーの対応(2.74)

5:地元での感染検査の情報(2.74)

6:症状を感じた際の対処(2.73)

7:地元での陽性判定者数(2.72)

8:地元、州におけるファクトチェック(2.69)

9:地元での死亡者数(2.65)

10:重症化率の高い人々への対応(2.60)

そして、関心が比較的低かった下位3つは次の通り。

20:地元レストラン、バーの対応(2.22)

21:キャンセルになった地元イベント(2.11)

22:新型コロナウイルス関連の地元での犯罪(2.04)

一方で研究チームはやはり3月24日、オンラインアンケートと合わせて、ローカルメディアがフェイスブックで紹介した新型コロナウイルスに関するニュースコンテンツについても調査した。

対象としたのは、全米50州の州都で発行される新聞と、全米に210あるメディア市場(DMAs)の4大ネットワークの系列局が、この日に行ったフェイスブックへの投稿(新聞1,264件、テレビ7,515件)。

その内訳は、全体の81%が新型コロナウイルスに関するニュースで、このうち65%が地元に関する内容だった。

調査では、新型コロナウイルス関連の地元ニュースを扱った1,002件の内容をさらに分析した。

このうち、上位10項目は次の通り。(*)で示したのは、調査対象者の評価で上位10位に入っている項目と合致する内容だ。

1:地元自治体、州政府の対応(34%*)

2:地元ビジネス、NPOの対応(スーパーやレストラン/バーを除く)スポーツクラブ、教会、児童保育センター、銃砲店、マリファナ薬局など(21%)

3:地元、州の確定感染者数や感染者の情報(18%*)

4:失業や損益など、地域経済への影響や見通し(14%)

5:地元の学校/大学の対応(10%)

6:ホームレス、高齢者などへのウイルスによる健康上の影響(7%)

7:地元の病院、医療施設の対応(6%*)

8:地元、州での死亡者数や死亡者の情報(6%*)

9:地元での感染検査の情報、検査を受ける方法、対象者、検査実施の有無(6%*)

10:キャンセルになった地元のイベント(3%)

最も多かった「地元自治体、州政府の対応」は、具体的には規制や外出禁止などの施策が多くを占めた。次いで多かった「地元ビジネスの対応」の関連では、11位に「スーパーの対応(3%)」、12位に「レストランとバーの対応(3%)」が入っている。

メディアによるフェイスブック投稿の1位「地元自治体、州政府の対応」と3位「地元、州の確定感染者数や感染者の情報」は、調査対象者の評価でもそれぞれ1位と7位となっており、関心にマッチしていた。

だが一方で、メディアが積極的に投稿した「地元ビジネスの対応」「地域経済への影響」は、調査対象者の評価の上位10位には全く入っていなかった。

●フェイスブック投稿への反応

調査では、メディアによるフェイスブック投稿への「いいね」やコメントなどの反応の件数もまとめている。

それによると、「いいね」が最も多かったのは「症状を感じた場合の対応(39.5件・中央値)」。次いで「政府の対応(35.5件)」「地元病院の対応(34件)」「地元スーパーの対応(33件)」などだった。

また、共有が最も多かったのも「症状を感じた場合の対応(42.5件)」。次いで「地元や州の死亡者数(38件)」「新型コロナウイルス関連の犯罪(34件)」だった。

今回の調査結果について、研究チームはこう見立てている。

この調査結果によれば、人々は地域の感染状況と日々の過ごし方についての情報に、より重点をおくことを切に望んでいることがわかる。

「感染」「外出禁止」といった暮らしに直接かかわるきめ細かい情報への要望。

これに対し、地域経済への影響を手厚く扱うメディア。

そのズレの背景には、地域経済へのダメージが、ローカルメディアの経営に直接的な影響を及ぼす、という点も見逃せないだろう。

●ローカルメディアへのダメージ

米国では、新型コロナウイルス禍によって、ニュースへのアクセスが急速に高まる一方で、特に広告収入の減少がローカルメディアの経営を直撃する、という事態が深刻化している

その現状を、メディアサイト「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」のジョン・オールソップ氏は、「黙示録」という表現を使ってまとめている。

ルイジアナ州の名門紙「アボケイト/タイムズ・ピカユーン」は3月23日、400人のスタッフの1割に対する一時的な自宅待機と、残るスタッフも週4日勤務とすることを明らかにした。

またフロリダ州の名門紙「タンパベイ・タイムズ」も3月31日、紙の発行は当面、部数の多い水曜日と日曜日の2日間とし、一部スタッフの8週間の自宅待機と残るスタッフの勤務時間短縮を実施する、と表明した。

さらにネットメディア「デイリービースト」によれば、全国紙「USAトゥデイ」を擁する全米最大の新聞チェーン「ガネット」も3月30日、自宅待機や給与削減を社内に通知したという。

※参照:デジタル移行への布石か、焼き畑ビジネスか|ガネット買収で誕生する巨大新聞チェーン(08/07/2019 新聞紙学的

具体的には、年収3万8,000ドル(約400万円)以上のスタッフは月5日の自宅待機を3カ月、役員は25%の報酬カット、CEOのポール・バスコバート氏は無給になる、という。

このほかにも、週刊紙などが次々にリストラや発行停止を行っている。

さらに、この波はローカルメディアだけではなく、ネットメディアも飲み込んでいる。

ネットメディアの「ヴァイス・メディア」は年収10万ドル(約1,000万円)以上のスタッフは報酬カット、役員の一部は自宅待機と20~25%の報酬カット、CEOのナンシー・デュバック氏は50%の報酬カットになるという。

ネットメディアの「バズフィード」でも、同種の措置を実施する。

特に米国ではこの数年、新聞業界の地盤沈下が顕著に表れていた。

ノースカロライナ大学教授、ペネロペ・ミューズ・アバーナシー氏の調査によると、米国では2004年以降、1,800紙近い新聞が姿を消し、ローカルニュースを報じるメディアがない“ニュースの砂漠”が広がっている、という。

そこに追い打ちをかける形となったのが、今回の新型コロナウイルス禍だ。

メディアコンサルタントのケン・ドクター氏は、"最も楽観的で成功している"という新聞経営者のこんな言葉を紹介している。

もし、これが2~3カ月のことなら、乗り切ることができるだろう。もし半年となったら、まったく見通しが立たない。

(※2020年4月2日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)