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さいとう・たかを氏「私にアシスタントはいない」。『ゴルゴ13』連載継続を可能にしたプロダクション方式

加山竜司漫画ジャーナリスト
外務省の「中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」にも協力したさいとう氏。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

『ゴルゴ13』などの作品で知られる劇画作家、さいとう・たかを氏が膵臓がんのため9月24日に亡くなったことが発表された。

『ゴルゴ13』の掲載誌「ビッグコミック」(小学館)編集部は「今後は、さいとう・たかを氏のご遺志を継いださいとう・プロダクションが作画を手がけ、加えて脚本スタッフと我々ビッグコミック編集部とで力を合わせ『ゴルゴ13』の連載を継続していく所存です」と、作品継続の意向をあわせて伝えた。

アニメの世界では『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』、『ドラえもん』のように、原作にはないオリジナルストーリーを脚本家が創作し、原作者の死後も作品が継続されるケースはある。あるいはアメリカン・コミックスだと、DCコミックスやマーベルコミックスに代表されるように、作者を変えながら連載を続けてきた例も多い。

それと同様に、『ゴルゴ13』もさいとう・プロダクションによって続編が描かれ続けていくわけである。

さいとう氏のプロダクション方式に寄せた情熱

これが可能なのは、さいとう氏が早期から分業・プロダクション方式での作品制作を実施してきたからにほかならない。

さいとう氏が最期まで連載中だった『ゴルゴ13』と『鬼平犯科帳』(リイド社「コミック乱」)は、いずれも雑誌掲載時には最後のコマにスタッフの名前がクレジットされており、携わったスタッフの名前が確認できる(『ゴルゴ13』はリイド社刊行の文庫版の巻末にも収録されている)。

『ゴルゴ13』の「脚本」を担当してきたスタッフには、マンガ原作者の小池一夫(故人)や工藤かずや、さらには外浦吾郎(吾朗)などがいる。外浦吾郎とは、小説『虹の谷の五月』で直木賞を受賞した船戸与一の変名である。

あるいは1980年代中頃の「担当編集」を見ると、長崎尚志の名前を見つけることができる。長崎は小学館を退社したのち、マンガ原作者・プロデューサーとして『PLUTO』や『BILLY BAT』をはじめとする浦沢直樹作品の制作に携わったり、数多くのマンガ原作を手掛けたりする。フリー転身後、今度は脚本担当として『ゴルゴ13』に関わるという、“凱旋帰国”を果たしている(「429話 真のベルリン市民」「555話 ロンメル将軍の財宝」)。

私は2018年にさいとう氏にインタビューをする機会に恵まれた際に、プロダクション制を導入した意図を聞いた。なお、さいとう・プロダクションの設立は1960(昭和35)年である。

――さいとう先生は早くからプロダクション制を導入しました。

さいとう みんなそれぞれ自分に足りないところで悩んでいるな、と思ったんです。だって、絵を描く才能とドラマをつくる才能は別物ですから。もちろん天才は出てきますよ。手塚先生(※注:手塚治虫)とか章太郎(※注:石ノ森章太郎)みたいな。でも、そんな人ばかりじゃないです。それぞれの才能を持ち寄れば、もっと完成度の高い作品ができるはずだと考えていたので、最初から組織づくりについては考えていました。ただ、現在のような“さいとう・たかをのためのさいとう・プロ”にするとは考えていなかったですけど。

――と言いますと?

さいとう 核をこしらえて、そのまわりにスタッフを置く……。核っちゅうのは、映画でいえば監督ですわ。そしてゴルゴのようなキャラクターができた時には、5つぐらいのグループで『ゴルゴ13』をつくれば、もっと読者にアピールできたと思うし、楽しいと思うんですよ。

――その『ゴルゴ13』を例にすれば、雑誌掲載時の最後のコマには、映画のエンドロールのように、スタッフのクレジットが入ります。

さいとう ええ、私の作品にアシスタントはいません。すべて“スタッフ”ですから。編集者も、プロデューサーだと考えてます。

(宝島社『生誕80周年記念読本 完全解析! 石ノ森章太郎』より)

この言葉からも、さいとう氏がアメコミのようなプロダクション方式を志向していたことが読み取れるだろう。

さいとう・プロダクションによる『ゴルゴ13』の連載継続は、決して「作者の死」による急場しのぎ的な施策ではなく、あらかじめ作者本人によってデザインされた作品制作体制であるという点は特筆に値する。

さいとう氏が情熱を傾けたプロダクション方式。今後のさいとう・プロダクション制作による『ゴルゴ13』にも注目していきたい。

漫画ジャーナリスト

1976年生まれ。フリーライターとして、漫画をはじめとするエンターテインメント系の記事を多数執筆。「このマンガがすごい!」(宝島社)のオトコ編など、漫画家へのインタビューを数多く担当。『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)執筆・編集。後藤邑子著『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』(文藝春秋)構成。 シナリオライターとして『RANBU 三国志乱舞』(スクウェア・エニックス)ゲームシナリオおよび登場武将の設定担当。

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